特集・連載

現役教師に聞く、モンテッソーリ・メソッドの基本「子どもの自主性を尊重してサポートする」とは?

「他人への思いやりと生涯学び続ける姿勢を持った自律した子ども」を育てていくことを目的としているモンテッソーリ・メソッドでは、子どもの自主性を尊重してサポートすることが大切であるとしています。
そのためには、子どもをよく観察して気持ちに寄り添うことが必要。ですが、どのように接したら「子どもの自主性を尊重してサポート」したことになるのか、疑問に思っている保育士さんも多いのではないでしょうか。

そこで今回は現役のモンテッソーリ教師・堀田はるな先生に、「子どもの自主性をサポートするって、具体的にどういうこと?」というテーマでくわしくお聞きしました。

子どもの発達から、家庭の関わり方が見える

――子どもを観察し、気持ちに寄り添う。子どもの自主性をサポートするのに必要なものとして挙げられていますが、具体的にどのようなところを意識して見てあげればいいのでしょうか。

子どもを観察する上で意識することはたくさんありますが、そのうちのひとつが「今、この子は発達過程のどの辺りにいるのか?」をよく見るということです。
たとえば、2歳児なら靴を履いたり上着を着たりということができるようになる年齢。そういった動作をする中で、「どのくらい手を動かせるか?」「どのくらい指先の発達が進んでいるか?」という点をひとつひとつ細かく見るようにするといいですね。
後は、その動作や課題に対して、「子どもの興味レベルがどのくらいあるか」という点も観察する上では意識しています。靴を自分で履こうという意思があるか、履きたいけれど難しい部分があるのか。それによっても、子どもへのアプローチの仕方が少しずつ変わってくると思います。

普段大人が履かせてあげるのが日常になっているとしたら、自分で履こうという気持ちに至っていないかもしれませんよね。そんな時なら「自分で出来るかな?こうするんだよ?」と声をかけることになりますし、やろうとしているけれど難しいのであればやりやすいように手助けしたり、やり方を見せてあげるのがいいかもしれません。あるいは、子供が一人で履くにはそもそも難しい靴であるという場合もあるかもしれませんよね。

子どもの自主性は、日々の活動に基づいて培われるもの。親御さんが子どもとどう関わっているかが大きく影響してきます。
靴を履くという行為ひとつとっても、「ご両親が全部やってあげる」家庭と「できる範囲で子どもにやらせている」家庭とでは、同じ年齢の子どもでも発達具合や興味のレベル、やろうとする気持ちの持ち方が違うのです。

子どもがやろうとしていることを大人が全部やってあげてしまったら、学ぶチャンスを奪ってしまうことになります。
そうではなくて、子どものやろうとする気持ちを阻害するものを排除してあげながら、「やりたい!」という気持ちを後押ししてあげるような関わり方が必要です。
ですから、それぞれ異なる子どもの発達具合に合わせて、どこにハードルがあるのかを大人が見極めるのが大切ですね。
保育士さんは、それに応じて親御さんにアドバイスをしたり、難しすぎる課題なら易しいものに変えてあげたりするようなサポートを意識するといいでしょう。

「今、できない子」は「これからできるようになる子」

――観察するポイントを踏まえた上で、日々の保育園の生活ではどのようなサポートをすればよいでしょうか。

2歳児とそれ以上ではできることが違うので一概には言えませんが、2歳児の場合は生活全般がトレーニングになります。靴の脱ぎ履き、上着のボタンやファスナーの扱い、お皿やコップを運ぶ、お弁当の準備や片付けなど、全てが体や手指を動かすトレーニングです。まずは先生がお手本をやって見せて、同じようにやってもらうのがいいですね。その子がやる姿を観察しながら、どのようにサポートすべきか考えましょう。

その時に上手くできなくても、「できない子」と決めつけるのはいけません。どうやったらできるようになるか考えて、根気強くアプローチしていくことが大切です。「こういうやり方なら上手にできるよ」とやり方を見せたり、必要に応じて子供の手の上から大人が手を添えてガイドしてあげるのもいい方法です。大人の手の動かし方をしっかり見られるように子供の隣に座ってやって見せるか、または子供の後ろから手を回して見せるのもいいやり方ですね。

教具や教材での活動では、子どもの発達段階に見合う難易度のものを用意することも立派なサポートです。
その子にとって難しすぎるものを与えて、それで上手にできなかったら、子どもは自信を無くしてしまいます。その子の成長の芽を潰してしまうのです。
ですから、その子には「少し難しい」くらいの難易度の課題を用意して挑戦させてあげることが大切。特定の子供用に新しい教材を用意するのが難しい場合には、難易度別にいくつか用意して、子供が自分で好きなものを選べるように出来るといいですね。

「できた!」という成功体験を繰り返していくことで自主性が少しずつ芽生え、どんどん成長を促すことができます。どんな小さなことでも、子供の「できた!」を大事にしてあげたいですね。

何が子どものハードルになっているのか見極めて

――堀田先生が実際に子どもの家で行ったサポートの一例を教えてください。

聞かん坊で怒りっぽい3歳児の保護者の方から「この子、どうしたらいいですか?」と相談を受けたことがあります。
その子には確かに物の取り扱いが乱暴なところはありましたが、教具の片付けをしっかり行いますし、パズルのピースを大きい順に並べて箱に入れるなどとても几帳面な様子でした。もとから聞かん坊というわけではなく、そうさせる何かがあるのではないかと感じました。
そこで保護者の方にお話を聞いたところ、多忙なあまり家の中の整理整頓ができていない状態であるとのこと。平日はその子にゆっくり関われない時間も多いようでした。
何でもきっちり秩序正しくなければ気が済まない、という時期を迎えている子どもには、その環境がストレスの一因になっているのではと思いました。
保護者の方が多忙であることは仕方のないことですが、その中でできることはないかと考えてみました。

そこで、保護者の方に「子どもが自分なりに整理整頓できるスペースを作ってみては」とアドバイスしました。園で毎日やっているお片づけを、家でもできるようにしたのです。
子供にとっては自分の環境の全てを整備するのは難しいことですが、自分で自由に管理できる小さなスペースを持つことで気持ちが落ち着く場所にできるのではと思ったのです。結果、少しずつ落ち着いて乱暴な振る舞いを減らすことができました。
年長児になる頃には、年下の子の面倒も見られる頼もしいお兄さんになりました。

きちんと子どもを観察した上で、「何が問題になっているのか?」を見極めることの重要性を再確認しましたね。本来は乱暴な子じゃないのに、表面的な事柄から「要注意」と決めつけてしまっていたら、もしかしたら違う育ち方をしてしまっていたかもしれません。

ネガティブな言い方をしても、誰も幸せにならない

――サポートがうまくいかなかったときにはどのようにすればよいのでしょうか。

まずは、一日の振り返りをする時間を作って、その日改善できなかったことを忘れないようにすることが必要だと思います。その上で、上手くいかなかったアプローチの方法を変えてみるといいでしょう。
たとえば、縫い物の課題をやりたがらなかった子どもがいたとします。ただ「やってみよう」と声をかけても効果がなかったら、その子の好きなものの絵柄を用意して促してみるのもひとつの方法です。
車好きの子どもであれば、縫い物の課題を車のモチーフのものにしてみるなど、子どもと課題の間にその子の好きなものを置いて、接点を作ってあげる。やってみたいと思うきっかけを作って誘導してあげるのです。
そうした工夫は、子どもたちが自分でできることの範囲を広げてあげるためにも必要ですね。

また、言い方ひとつでも子どもに対する伝わり方が変わることがあります。
走っている子に「走らないで!」と否定的に言うよりも「ここでは静かに歩いてね」と促した方が子どもにとってもわかりやすいですよね。
ネガティブな言い方は子供の中に「注意された」という意識しか残りません。一度言っただけでは伝わらないかもしれませんが、根気良く繰り返すことで、子供の中で「静かに歩くんだったな」ということが根付いていきます。
保育者には一度で結果を求めない根気強さも大事ですね。

否定的なことを言わないように意識しながら、声掛けの仕方を改善していくことも大切です。
素敵な声掛けをしている先生が同僚や先輩にいたら、その人のやり方をメモして真似してみることもひとつの方法ですよ。

編集者より

「大人のスピード感で結果を求めない」
「子どもに対して勝手な決めつけをしない」
「忍耐をもって接する」
「ポジティブな言い方で自分で考えることを促す」

モンテッソーリ教育を行っている・いないに関わらず、保育士さんが子どもと接する上で意識したいポイントですよね。
「1クラスの人数が多くてなかなか一人ひとりの子どもに時間を割いてあげられない!」という保育士さんでも、子どもに対する声掛けの仕方や心構えなどから少しずつ意識していけるのではないでしょうか。
ぜひ、モンテッソーリ・メソッドの考え方を、今後の保育に活かしてみてくださいね。

ABOUT ME
保育のお仕事レポート
保育業界専門の転職支援サービス「保育のお仕事」です。 「保育のお仕事レポート」は、現場で働く保育士さんのためのメディアとして運営しています。お役立ち情報や最新の求人情報は各SNS(FacebooktwitterLINE@)で要チェック!
保育のお仕事 最新求人