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「好き嫌いがあることは成長の証」~食の育ちをやさしく見守るために保育士さんができること~

日々子ども達の食にかかわる保育士さんならば、子ども達の食べものの「好き嫌い」に直面することは、多くあることでしょう。

子ども達の健やかな成長を願うがゆえに、「どんな食材も、残さずしっかり食べさせなくては」「好き嫌いは早く克服させなくては」と考えてしまいがちですが、じつは、子ども達の好き嫌いにも、さまざまな理由があります。

今回は、主に子育て中のママ向けのイベントやセミナー、食スク―ルなどを運営するmamafulの代表で、管理栄養士の隅 弘子(すみ ひろこ)さんに、好き嫌いが生じるメカニズムや、保育園における対応のポイントについて、お話を伺いました!

「みんなで食べるとおいしいね!」 隅弘子さんに聞く保育園における食育の役割とは?保育園における「食育」の推進は、保育所保育指針にも記載された大切な役割。皆さんの保育園でも、さまざまな食育の取り組みを実践されていること...
    *シリーズ「しあわせ食育教室」は保育園における食育実践のポイントや、日々の保育に楽しく「食」を取り入れるためのヒントをご紹介する、連載企画です。

子どもたちに好き嫌いが出てくるのは「自然なこと」

離乳食を食べる赤ちゃん
一般的に、1歳6ヶ月以降になると、ある程度離乳食が完了して幼児食に移行していきますが、この頃には今まで食べていた食べものでも、食べなくなってしまうといった「食べものの好き嫌い」が増えてくる傾向があります。

これは順調に離乳食が進んでいたお子さんでも起こることなので、保護者のなかには、まるで振り出しに戻ったように感じて、「どうしてだろう」「自分の味付けや与え方に問題があるんだろうか……」と悩んでしまう方も多いことでしょう。

しかし、幼児期における食べものの好き嫌いは、実は子どもたちの成長と発達にその要因があることが多いのです。

本来、好き嫌いは「出てくることがあたりまえ」。それを理解したうえで、今後どうしていくのか、対策を考えていくことが大切ですね。

【好き嫌いの原因1】自我と口の機能が発達すること

では、なぜ「好き嫌い」が成長と発達の証といえるのでしょうか。そこには、子どもの心身の発達メカニズムが大きく関与しています。

まず、「この食べものは嫌い!」「食べたくない!」という意思表示ができるということは、自我が発達し、自己主張ができるようになってきたという証拠です。

また、それに加えて口の機能の発達が、好き嫌いを生じさせるきっかけとなることもあります。

一般的に、離乳食期は月齢や離乳食の状態にあわせて「ゴックン期」「モグモグ期」「カミカミ期」「パクパク期」の4つに分類されます。

タイトル
月齢 期間の名称 離乳段階 離乳食の状態
生後5~6ヶ月頃 ゴックン期 離乳食初期 なめらかにすりつぶした状態
生後7~8ヶ月頃 モグモグ期 離乳食中期 舌でつぶせるくらいの固さ
生後9~11ヶ月頃 カミカミ期 離乳食後期 歯ぐきでつぶせるくらいの固さ
生後12~18ヶ月頃 パクパク期 離乳食完了期 歯ぐきで噛めるくらいの固さ

離乳食初期の「ゴックン期」ではその名のとおり、赤ちゃんは与えられた離乳食を「ゴックン」と飲み込むだけ。つまりお口は食べものの通過点でしかありません。

しかし、舌で食べものをつぶす動きができるようになったり、前歯が生えてきて噛む練習ができるようになったりと、食べものを受けとる口の機能はしだいに発達していきます。

2歳前後には、乳歯列もある程度揃い、口の中に食べものをとどめて、味わうことができるようになるでしょう。

つまり、子どもたちの口は、食べものをたくさんためておけない、平たい「お皿」のような状態から、しっかりと食べものを受け止められる「お椀」のような状態へ、流れ過ぎるだけの単なる「通過点」から、食べものの舌触りや味を感じとる、いわば「関所」のような役割へと変化していくのです。

舌の上に長時間食べものをためておけるようになり、舌の動きも活発になれば、それだけ味をしっかりと感じられるようになってきます。この変化によって、食べものを「おいしい!」と感じることもできるようになる一方で、「好きじゃない」と感じる食べものも出てくることでしょう。

この、お口の機能の発達こそ、食べものの「好き」「嫌い」を新たに生じさせる要因のひとつなのです。

子ども達に好き嫌いが出てきた際、まずは「お口の機能がずいぶん発達したんだ!」と捉えることを、保護者にも伝えてあげてほしいですね。

【好き嫌いの原因2】子どもの味センサーは大人より敏感!

私達の舌には、味蕾(みらい)とよばれる味を感じるセンサーが存在します。生後3か月頃には1万個にもなるというこの「味蕾」ですが、じつは、大人になるにつれて数が減少してしまうんです。

つまり、子どもは大人以上に味に敏感だということ。苦手な味が、大人以上に感じやすいということも、幼児期に食べものの好き嫌いが生じやすい理由のひとつでしょう。

【好き嫌いの原因3】生きるために必要な味を見分ける能力が備わっている

好き嫌いをする子ども

子どもたちが「嫌い」になりやすい食べものと聞いて、どのような食材が浮かぶでしょうか。ピーマン?トマト?それともレバー?……一見すると関連性がないようにも思える、子どもたちに敬遠されがちな食べものですが、実は、ある共通の味が含まれることが多いのです。

人間の味覚は、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味という5つの基本的な味、つまり「五味」で構成されています。

このうち「甘味」は、赤ちゃんが母乳やミルクを通じて、生まれてはじめて受け入れる味ですから、子どもたちはみんな大好き!「生きるエネルギー源」としても、自然と受け入れられるようにできています。

いっぽうで、自然界において「酸味」は腐敗を感じさせる味のサインですし、「苦味」は薬物や毒の味のサインです。私たちの体には「生命をおびやかす味は、最初は受け入れない!」というメカニズムが備わっていますから、それらの味覚が比較的強い野菜などを、子どもたちが「ペッ!」と吐き出してしまう……というのも、ごく自然なことだと言えるでしょう。

繰り返しますが、これは、命を守り、生き残るための「本能的な反応」。しかし、大人はそれを「好き嫌い」と捉えてしまいがちです。そのために多くの保護者は「困ったものだ……」と悩んだり、食べてくれないことにプレッシャーを感じたりしてしまうのです。

「酸味」「苦味」というこの2つの味覚は、経験を通じて、徐々に好きになっていくもの。1度や2度、吐き出したりイヤイヤをしてしまったりしても、「この子、〇〇が嫌いなのね……」と断定してしまうのではなく、「今はそれぞれの味覚について、食べて大丈夫なのかを確認している段階なんだ」と捉えてあげるとよいでしょう。

保護者には、悩み過ぎずに「経験を積み重ねることで食べてくれるようになるといいな……」という気持ちを持ってもらうことが大切ですね。

【好き嫌いの原因4】経験によって嫌いになる

単に「味が嫌だ」という理由以外に、経験によってその食べものが嫌いになってしまうことがありますが、実はこれもよくある事例。「以前は好きだった食材がある経験によって食べられなくなってしまう」というケースはたくさんあります。

たとえば、次のようなシーンを思い浮かべてみましょう。

【ケース1】
家庭でお母さんが「食べさせたい」と思う食材を、子どもの目の前に置き、険しい顔つきでスプーンをその子の口に運ぶ。子どもには、その「食べさせなくては」という思いが無言の圧力となって伝わり、口をつぐんでしまう。すると無理やり口をこじ開けられ、吐き出すと「まったくもう!また食べないのね!」とイライラとされてしまう……。
【ケース2】
ある食材を食べて、その後に腹痛や嘔吐を起こしてしまい、それがもとで「2度と食べたくない」と感じてしまう。

上記のようなことがあった場合には、味よりもむしろ、食べるときに抱いた感情がもとで、その食べものを嫌いになってしまうことがあります。このケースは「食物嫌悪学習」といわれ、研究の結果からも好き嫌い発生の原因となることが明らかにされています。

食におけるネガティブな経験は、その食べものと結びついてしまい、好き嫌いのきっかけになったり、悪化させてしまったりすることにつながります。「食べさせなくては!」という気持ちが先行し、つい強い口調で「食べなさい!」と促してしまうことはかえって好き嫌いを助長してしてしまうもの。保育士さんは、その点も意識したうえで、保護者への声かけをしてあげたいものですね。

「無理にでも食べさせなくては!」はかえってよくない

イヤイヤをする子
では、保育士さんは子ども達の好き嫌いに対して、どのように対処したらよいのでしょうか。

まず、大前提として「無理にでも食べさせる」「絶対に残すことを許さない」という方法は、良策とは言えません。

ひとたび食において嫌な体験をし、その食べものを「嫌い」になってしまうと、そこから立て直すのには、多大な労力と時間が必要です。

ある食べものに嫌な記憶ばかりが残ってしまった子どもたちが、はたしてその食べものを「おいしく」食べることができる日は、やってくるでしょうか。

大人が「食べさせよう」と躍起になればなるほど、子どもの苦痛は増してしまい、その食べものを好きになるどころか、食事の時間そのものが、子ども達にとって苦痛になってしまうかもしれません。

好き嫌いの対処のポイントは、「食べさせる」のではなく、あくまでも子どもたちの「食べてみようかな」という気持ちを引き出してあげること。そして、そのための環境をきちんと整えてあげることなのです。

時間をかけて「食べてみようかな?」の気持ちを引き出そう

食事をする子ども
では、ここからは具体的に、どのようにすれば子ども達の食べる意欲を引き出せるのか、そのヒントをご紹介していきましょう。

しばらくはテーブルの上に出すだけでもOK

苦手な食べものを、1度や2度の声掛けで食べられるようにするというのは、やはり難しいでしょう。

どうしても食べられない、口に運ぼうとするとしない場合には、まずはテーブルの上にその食べものを置いておくだけでもOK。苦手な食材を、視覚的に認識させるようにしましょう。

食べられなくてもいいのです。子どもたちの「食べもの」というグループから、その食べものを排除しないでほしいのです。

今までに食べられなくて叱られたり、嫌な思いをしたりといった経験があったとしても、無理に食べさせようとしなければ「〇〇があってもいやなことは起こらないんだ、大丈夫なんだ」というようにとらえることができるでしょう。

「苦手だから出さない・見せない」のではなく、少しずつ距離を縮めていくようにしましょう。

「ひと口だけ食べてみない?」と誘ってみる

「見慣れているもの」に対しては、子どもたちも「ちょっと食べてみようかな」という気持ちがわきやすいものです。

テーブルに苦手な食べものを置くことを繰り返したら、様子をみながら「ひと口だけ食べてみない?」と優しく声をかけてみましょう。8回~10回ほどは、このチャレンジを繰り返してみます。園児といっしょに給食が食べられる環境であれば、「先生もいっしょに食べるから」と誘ってみてもよいですね。

無理強いする必要はありません。少しでも食べられたらほめてあげてください。失敗しても叱る必要はありません。子どもたちの「食べてみようかな」という気持ちが、すんなり行動になるまで、焦らずその子のペースにあわせて取り組んでいきましょう。

保育園だけでなく家庭でも同じように取り組んでもらえるよう、連絡ノートや送迎時の会話を通じて、保護者と連携を図っていくとよいですね。

子どもの自尊心をくすぐってみる

保育園における食事の強みは、集団で食べるということ。お友だちが食べているのを見て「自分も食べてみようかな……」という気持ちになることも多いものです。

食べられる子と食べられない子とを比較する必要はありませんが、食べられた子に対しては「すごいね!かっこいいね!」「お兄さんだね・お姉さんだね」といった前向きな言葉で、しっかり褒めてあげましょう。

「そうか、食べられるとかっこいいのか!」という気付きのきっかけを与え、少しだけ自尊心をくすぐってあげると、苦手な食材との距離が、少し縮まるかもしれませんね。

「食べてくれない……」保護者の悩みにどう寄り添うか

「うちの子、どうしてもピーマン食べてくれないんです……」「好き嫌いばかりでご迷惑をおかけして、すみません……」保育士さんであれば、我が子の好き嫌いに悩む保護者の相談を受けることも多いでしょう。

そんなときには、ぜひ「なぜその食材を食べさせたいと思うのか」聞いてみましょう。

【ケース1】栄養が偏るのではないかと心配……

「バランスよく食べないと、栄養が偏るから食べて欲しい……」という保護者の場合には、その食材以外にも同様の栄養が摂れる食材があることを伝え、それが食べらられば、ひとつの食材が食べられないことにばかり固執しなくてもよいことを伝えましょう。

お話してきたように好き嫌いには、さまざまな原因があり、克服にはある程度の時間と労力が必要です。まずは、親子で楽しい食事の時間を持つことが大切であることを伝えましょう。

【ケース2】好き嫌いをする子どもに育ててしまったことに劣等感

子どもが好き嫌いをするようになってしまったことで、「自分の育て方が悪かったのではないか」と自分を責めてしまったり、世間の目が気になってしまったり……。そんな保護者には、好き嫌いが生じるメカニズムを伝えてあげましょう。

どんな子どもでも好き嫌いが生じる可能性があること、そして、それだけ子どもの心身が成長しているという証拠であることを伝えてあげることで、心の負担を和らげてあげることができるでしょう。

ピーマン

【ケース3】とにかくどうしても食べてほしい!

子どもの将来を思って、「できるだけ好き嫌いなく育てたい、そのためにもどうしても食べてほしい」というケースもあるかもしれません。

その場合には、園ではどのような取り組みをしていくか、どのように保護者と連携を取っていくかをしっかり話し合う必要があるでしょう。コミュニケーションを密にとって、トライしたこと、できたこと、完璧にはできなかったけれど頑張ったことなどを共有しながら、少しずつ克服できるようにサポートできるとよいですね。

保育園と家庭とで連携し、たくさんの成功体験を積もう!

保護者から、その子の苦手な食材を聞くことがあれば、保育園でその食材を口にできた、食べてみようと頑張ったことを、しっかりと保護者に伝えてあげましょう。

また、家庭でできたことや努力したことも、同様に保育園へ伝えてもらうようにするとよいですね。

「保育園で〇〇食べられたんだってね!すごいね!」「おうちで食べられたの?すごい!かっこいいね!」園や家庭でかけてもらうそのようなほめ言葉は、子どもたちの成功体験として蓄積されて、自信につながっていきます。

そのような経験は、食に対してポジティブな記憶を残し、「食べてみようかな」という積極的な行動に結びついていくことでしょう。

ある程度は「個性」として認めてあげてもいい

食べものの好き嫌いは、ないに越したことはありませんが、必ずしもすべての好き嫌いを克服しなくてはならない!というものではないと思います。

好き嫌いもある程度はその子の「個性」と捉えてもよいでしょう。

苦手な食材のみに執着したり、他の子と比較したりして、家庭での食卓が余裕のないギスギスしたものになってしまうのと、好き嫌いがあっても楽しく食卓を囲むことができるのとでは、後者のほうが、子ども達にとってはよい影響を与えてくれるはずです。

たとえば、牛乳が嫌いでも牛乳が入ったパンや料理が食べられればよしとする、などと寛容に捉えてみるのもよいですね。

食事の時間以外にも好き嫌い克服のヒントはある!

野菜
保育園によっては、食育の取り組みで調理を体験したり、作物を育てたりしているところもあるかと思いますが、「自分が作った食べもの」は、子どもたちもより身近に感じられるものです。たとえ苦手な食材だったとしても「食べてみようかな」という気持ちを引き出しやすいでしょう。

また、食そのものに興味を持ってもらうという意味では、食材に触るという体験をしてみたり、食事の準備を手伝ってもらったりしてもよいかもしれません。

これは家庭においても同じことが言えます。子ども達はいっしょにやったこと、自分が関わったことについて興味を持ってくれるもの。ほんの少しでよいので、食事において役割を与えてあげる、お手伝いをしてもらうだけでも、食に対してポジティブな気持ちを生み出すきっかけになるでしょう。

「うちの子は食事に集中しなくて……」と困っている保護者がいたら、「〇〇ちゃん、一緒においしいごはんの用意してくれると、とってもうれしいな。お母さん、〇〇ちゃんにお願いしたいことがあるんだけど……」などの声かけをしてみてはどうかと、アドバイスしてあげても、よい機会が作れそうですね。

編集者より

ドーナツを食べる子
「好き嫌い」=「悪いこと」という考え方は、今も人々の意識に深く根付いていますが、それがなぜ生じるものなのか、ということについては、なかなかフォーカスされないもの。そのために適切な対処法がわからずに、「家庭での食がうまく進んでいない」と悩んでいる保護者も多いことでしょう。

プロである保育士さんのアドバイスや声掛けは、不安や悩みを抱える保護者にとっては「希望の光」となるものです。今回の記事が、園での食育だけでなく、保護者支援にも結びつけば、編集者としてこれほど嬉しいことはありません。

「食べることは本来楽しいこと」。家庭と連携しつつ、子ども達が園でも、家庭でも笑顔で食事を楽しめるようになることを願っています。

隅 弘子(すみ ひろこ)さんについて

隅弘子さん

◆隅 弘子(すみ ひろこ)◆
・管理栄養士/こども成育インストラクター食専科ディレクター
・母子栄養指導士

相模女子大学学芸学部食物学科管理栄養士専攻を卒業後、集団給食・FC展開支援・外食産業、グルメ探訪などの業務に携わる。30才を前に、より食のことを本質的に学びたいと本格的に学び直す。

その後、自身の妊娠・出産を機に「子育てを自己のキャリアとして積むことができる」と確信。2013年より、「ママの笑顔がいっぱい(ful)な世の中になりますように」という思いから、mamaful(ママフル)を立ち上げる。

mamaful▲mamaful(ママフル)ウェブサイトはこちら!

現在はフリーランスの管理栄養士として、セミナーでの講演や、子育て支援施設での栄養相談を担当するほか、母と子の食事に関して、アドバイスできる人材を養成するための講座において、講師を務めている。

【主な講座】
一般社団法人 日本こども成育協会
・こども成育インストラクター
一般社団法人 母子栄養協会
・妊産婦食アドバイザー
・幼児食アドバイザー
・学童食アドバイザー 他

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