取材・インタビュー

「子どもとともに」が、まちをもっと面白くする~子ども―保護者―地域がつながる「まちの保育園・こども園」の目指す未来~

アイキャッチ_まちの保育園・こども園

近年、子ども達を取り巻く環境は大きく様変わりしています。

少子化や核家族化、都市化によって人とかかわる機会が減りつつある現代社会。かつてまちのなかでみられた人と人との交流は、もはや「あたりまえ」のものではなくなってきています。

そんななか、保育施設を「まちづくりの拠点」として地域に開き、地域全体で子どもの育ちを支えることをめざすのが「まちの保育園・こども園」です。

そのコンセプトはズバリ「まちぐるみの保育」

今回は、地域資源を子どもの学びにつなげるとともに、保育園をまちづくり、よりよい社会づくりの拠点とすることを目指す同園の魅力と保育への想いを、たっぷりお伝えしていきます。

●まちの保育園・こども園で働く保育士さん達のインタビューはこちらから

アイキャッチ_まちの保育園・こども園保育者インタビュー(前編)
こどもとおとなの「想い」が共鳴する保育~まちの保育園・こども園保育士さんインタビュー【前編】~「子ども主体のまちぐるみの保育」をコンセプトに、子どものよりよい育ちを目指すことはもちろん、園をまち全体、ひいては社会をよりよいものにす...
アイキャッチ_まちの保育園・こども園保育者インタビュー(後編)
保育に正解はない。だから「対話の力」を信じて歩み続ける~まちの保育園・こども園保育士さんインタビュー【後編】~子どものよりよい育ちを目指し、地域の人や施設をも巻き込んだ「まちぐるみの保育」を目指す「まちの保育園・こども園」(ナチュラルスマイルジャ...
    *シリーズ「保育ノゲンバ」は、保育施設や保育士・園長先生などにフォーカスし、保育の現場(ゲンバ)をお伝えするリポート取材連載です。

都内に5つの園をかまえる「まちの保育園・こども園」

まちの保育園・こども園は、ナチュラルスマイルジャパン株式会社が運営を行う保育施設。
 
現在、東京都内に認可保育所と認定こども園(保育所型)、あわせて5つの園があります。

【まちの保育園】

・まちの保育園 小竹向原(練馬区)
・まちの保育園 六本木(港区)
・まちの保育園 吉祥寺(武蔵野市)

【まちのこども園】

・まちのこども園 代々木上原(渋谷区)
・まちのこども園 代々木公園(渋谷区)

また、まちの保育園・こども園の理念に共感し、共に学び合っている提携園(アライアンスパートナー)なども、全国に8園あります。(2019年11月時点)

小竹向原園▲「まちの保育園」第一号の小竹向原園。地域の人も利用できる隣接したカフェやガラス張りの明るい保育室からは、オープンな園の雰囲気が感じられる
六本木園▲園の趣も「まち」ごとに異なる。高層ビルに園舎を構える六本木分園は、国際的な「まち」の中であえて日本のアイデンティティを感じられるよう、日本家屋を思わせる梁や和室が特徴的だ

1園目の「まちの保育園」である小竹向原園が開園したのは2011年のこと。

その後、2012年に六本木本園、2014年に六本木分園と吉祥寺園が開園し、2017年春には代々木上原に認定こども園である「まちのこども園」が誕生。また、同年秋には渋谷区の都立公園である代々木公園の敷地内に、「まちのこども園代々木公園」が開園しました。

代々木上原園▲閑静な住宅街にある代々木上原園。木材やレンガなどの自然素材が用いられた園舎は、いつも子ども達をあたたかく迎えてくれる
代々木公園園▲まちのこども園 代々木公園。グッドデザイン賞にも選ばれたスタイリッシュかつどこか懐かしさのある園舎が、草木の緑に映える

施設形態も周辺の環境も、そして園の雰囲気もそれぞれに異なる5つの「まちの保育園・こども園」。しかし、そこには「こども主体のまちぐるみの保育」を目指すという共通の「軸」があるのだそう。

ここからはまちの保育園・こども園が目指す保育のありかたについて、くわしくお伝えしていきます。

「こども主体のまちぐるみの保育」を目指して

今回お話をうかがったのは、ナチュラルスマイルジャパン株式会社の代表を務める松本 理寿輝(まつもと りずき)さん。

まずは「こども主体のまちぐるみの保育」というコンセプトがどのようにして生まれたのか、そしてその背景にどのような想いが込められているのか、お聞きしました。

松本 理寿輝さん

――まちの保育園・こども園は、「こども主体のまちぐるみの保育」を目指して、地域の人や施設を巻き込んだ保育活動をされているそうですが、その発想はどのようにして生まれたのでしょうか?

松本 理寿輝さん(以下、松本):まちの保育園の開園前、「保育園をつくりたい」という想いで動いていた頃、私はまず「いまと、これからの社会に生きる子ども達にとって、どんな学び・育ちの環境が望ましいのか、その時、園や学校はどうあるといいか」ということを、出会った色々な人や仲間と考えていました。

●「教える」学校から、「学ぶ」学校へ。子ども主体の学び
●認知能力のみならず、非認知能力も大切にしていきたいこと。何を学ぶか、と同じかそれ以上に「学び方を学ぶ」ことが大事になりそうなこと
●子どもの将来のためにも、「いま」が大事であること。いま、生きる喜びを感じる経験を大切にしていたいこと
●ダイバーシティ・アンド・インクルージョンの視点
●クリエイティビティ(創造性)や美的感覚の価値
●保護者のウェルビーイングも大事。保育・教職者、コミュニティ、社会のウェルビーイングも大事。あるいは、そのウェルビーイングのためにも、園や学校ができることもあるということ
●その他、教育の多様性、アイデンティティ、シチズンシップ教育、持続可能な社会・地球環境、あるいはこれからの園・学校の組織論についてのこと
など……

現在も、議論されている保育・教育や子どもの環境を考えていくための重要なテーマ(あるいはテーマの種)は、当時からありました。
いろいろな人に学ばせていただきながら、協力いただきながら、これらのテーマに取り組んでみていたのですが、その中で、どうも、次の3つのことが大切になりそうだと、気がついたことがありました。

1つ目は、当たり前ですが、これら重要テーマについて、ひとりでは考え切れないということです。そもそも、「教育は社会を追いかけるものではなく、社会をつくるもの」ではないでしょうか。社会みんなで考えていきたい。そのために、「市民参加」を大切にして行きたいと思っています。もちろん、子どもにも市民として参加してもらうことも考えていきたい点です。

2つ目は、その時に、意識として、みんなで「答え」探しするより、「問い」が大事なのではないかということ。「問い」を真ん中に置き、対話から理解を深めていくことが、子どもや参加者にとってのウェルビーイングに繋がりやすいのではないかと思うこと。よい問いは学びを深めるとともに、人々をつなぎ、社会を豊かにするのではないか。これは、いまでも実感するところがあります。

3つ目は、教育・保育は、子どもたちのために、私たちが何を「する(doing)」か、と同時に、私たちが、どう「ある(being)」かも大事なのではないかということ。子どもたちは、私たちをよく見ていますね。私たちが、まだ手にしていないことを子どもに願うばかりでなく、私たち自身が率先して動いていていき、つかみかけている社会や、これからの時代に求められる力を、子どもに手渡していくこと。
それを、肩肘張りすぎず、ほどほどに。まずbeing(どうあるか)があってのdoing(何をするか)が、well-being(よりよくあること)につながるのではないかと思いました。気をつけないと、教育は、まるで誰にも当てはまる魔法があるかのように、doingから入りがちなところがあります。

これらのことから、「理想的な子どもの環境づくりは、理想的な社会づくり」なのだと、やや大げさかもしれませんが、自分達にとっては大事な「探究テーマ」ができました。そこで、まちに開かれた、まちとと共にある、まちをつくっていく、ということを、保育園が積極的にコミュニティをつくって考えてみることにしました。

それが、まちの保育園・こども園のスタートです。

――これからの社会のなかで、子ども達の学びや育ちをより開かれたものにする必要があると考えられたのですね。

松本:そうですね、「まち“が”保育園」や「まち“が”学校」というイメージに近いでしょうか。子どもが市民として、まちから歓迎され、まちに参加し、様々な価値観・考え方・生き方、仕事・文化との出会いやかかわりを持つ。また、自分の行動や存在が、まちに影響を与えていることを経験する。そのようにして、まち全体が子どもの育ち・学びの環境になることを目指していきたいと考えました。
さらには、私たちは、子どもだけでなく、保護者も、地域の人も、保育者も、みんなが主人公と考えています。

ある禅僧が語られたことで、印象的なエピソードがあります。

アメリカ先住民と、森を歩いていると、急に立ち止まった。どうしたのかと聞くと、『心が追いつくのを待っている』といった」。

私たちが日々、子どもといて実感するのは、「心」が「ここ」にあることの大切さです。「心」が「ここ」にあれば、人はよく学ぶし、幸せを感じやすいし、他者に優しくなったり、社会を想うようになりやすい。
そして自分も大事にする。「心」がずっと「ここ」にある、というのはとても難しいことなのだと思います。それでも、大人も、子どもも、「心」が「ここ」にある時間を、少しでも支えたい。保育園がまちにあることで、貢献できることが少しでもあるのではと思うのです。

もちろん、私たちだけではできることに限界があります。そこで、みんなの「心」が「ここ」にあるために、それぞれが持っているものを引き出したり、つなげたり、受け止めたり、待ったりしていく、コミュニティを育んでいくことができればという願いを持っているのです。

想いを語る松本さん▲着想から20年以上経つ「まちの」という想いの原点に立ち戻って語ってくれた松本さん。その想いはいまや、多くの子ども達の笑顔と学びにつながっている

――なるほど。子育てが閉鎖的で孤立しがちな現代において、とても大切な視点ですね……。

松本:ひと昔前ならば、子ども達は地域のさまざまな大人とかかわりあいながら成長していきました。

でも、今は安全などを考慮して、子育てや保育、教育の現場が外部に閉じてしまう傾向にありますから、子ども達が人とかかわる機会というのも、限定的になりがちだと感じています。

たとえば、核家族世帯で共働きという場合、育児は保護者や保育園の保育者に支えられている場合が多いように思います。

でも、保育園に通っている0~6歳の時期というのは、人格を形成するうえで一番大事な時期だと言われています。

その時期に出会った人やもの、価値観や文化……そういったものとの出会いが、子ども達の育ちに大きくかかわってくる。そういった中では、もう少し開かれた出会いがあっても良いのではないかと考えました。

――そんな大切な時期に特定の人としかかかわりを持てないのは、「もったいない」……と

松本:そうとも言えるかもしれません。だからこそ、子どもの学び・育ちを支える保育園が、地域社会とともに「開かれた学び」の環境を充実させていくことが重要だと思ったんです。

興味津々の子ども達▲まちには、園のなかだけでは得られない出会いや学びの機会がたくさんある

――そんななかで、保育者はどのような役割を担うべきなのでしょうか?

松本:まちの保育園・こども園における保育者は「学びのパートナー」だと考えています。

たとえるならば、道の歩み方を教えるのではなく、あらゆる「道の存在」を子ども達に共有していく存在ですね。

「世の中にはいろいろな道があるんだ」と知り、それぞれの道を歩んでいる人たちの生き生きとした姿を見る……。

「あの道、おもしろそう!」とさまざまなことに希望や夢を持って、これからの人生の選択の幅を豊かに広げていく。

そんな子ども達の学びに伴走していくのが保育者であり、その学びを充実させるための資源は、保護者や地域の人々といった、まちのコミュニティのなかにあると考えています。

まちづくりの拠点としての保育園

――「まちぐるみの保育」においては、地域を子ども達の学びの資源と考えるだけでなく、保育園を「まちづくりの拠点」ひいては「社会をつくる場所」として捉えていますよね。

松本:地域がつながりあうことって、子ども達にとってだけではなく、子育て家庭や地域にとっても意味があることだと思うんです。

たとえば、子育て中のママ・パパは、“孤”育てが課題になったりしていますが、地域でママ友・パパ友ができたり、地域とつながりを持つことで、子育ての孤独感が軽減するかもしれません。
また、高齢者にとっては子どもとのかかわりが「生きがい」につながる可能性もあります。現に、私たちのまちでは、「あいさつする人が増えて楽しい」「おしゃれをしてまちに出るようになった」などの高齢者の方からうれしい声を聞かせていただくこともあります。

安全・安心なまちづくりにとっても、地域のきずなが豊かに育まれることが一助となるはずです。

こども-保護者-地域……どの視点から見ても「まちぐるみ」には価値がある。だからこそ、子どもの育ちや学びに積極的に地域資源を活用するだけでなく、保育園を地域の拠点にしたいと考えました。

繰り返しになりますが「保育・教育は社会を追いかけるものではなく、社会をつくっていくもの」。そして、園は地域における社会基盤となりうるものだと思うんです。

コミュニティの年輪論▲まちの保育園・こども園が理想とするコミュニティを年輪にたとえた図。年輪の中心にはこどもがいて、その芯を強く育むために周りの大人や地域がかかわり、樹木=コミュニティが豊かになっていく

まちの保育園・こども園が大切にする「3つの力」

まちの保育園・こども園では、目指す保育を実現するために3つの力を大切にしています。

ここからはその3つの力、「こどもの力」「コミュニティの力」「対話の力」について紹介していきましょう。

◆こどもの力

まちの保育園・こども園は豊かな可能性を秘めた「子ども達が生まれながらに持つ力」を信じ、大切にしています。

【こどもの力を信じる、“プロセス主義”】

まちの保育園・こども園では、「子ども達が今、どのような芽を伸ばそうとしているのか」というプロセス主義の視点から、子どもの育ちを見守っています。

「この子は今、なにに夢中になっているのか」「どのように向き合っているのか」

保育者は子どもの興味や学びの過程を見つめ、育ちつつある力を伸ばすために必要な環境や支援を考えます。

代々木上原園園庭▲遊びを規定する遊具がなく、木や築山など自然とかかわれる代々木上原園の園庭。思い思いに探究する子どもの姿から、一人ひとりに育ちつつある「芽」を見出すのが保育者の役目だ
石を広げて遊ぶ子ども達▲「こどもの力」を信じるからこそ、日々の保育活動も子ども達が主体的に考え、選べるように工夫されている
代々木上原園のアトリエ▲子ども達の表現活動の場となるアトリエ。絵の具やねんど、ハサミや筆のほか、木の葉や小枝など自然物が揃えられ、自由な発想で創られた力作が展示されている。また、子どもたちの学びのプロセスを記録したドキュメンテーションも作成される

◆コミュニティの力

「良い出会いと豊かな実体験」を通じて、こどもたちさまざまなことを学んでいくという考えのもと、多くの人や価値観、文化、できごととの出会いを大切にしています

【具体的な取り組みの例】
  • 地域と園とをつなぐ中間領域として、地域の人が利用できるカフェやコミュニティスペースを設ける
  • 子ども-保護者-地域をつなぐコミュニティコーディネーター(CC)という専任職員を配置する
  • レッジョ・エミリア教育の考え方をベースに、アトリエの設置やドキュメンテーションによる記録・情報発信などを行う
  • まちのパーラー▲小竹向原園に隣設したカフェ「まちのパーラー」。保護者から近隣の住人まで毎日多くの人で賑わっている

    園と地域をつなぐコミュニティコーディネーター(CC)

    コミュニティコーディネーター(以下、CC)とは、子どもや保護者、地域とをつなぐ「橋渡し」の役割を担う専門職のこと。

    コミュニティにおける「コンシェルジュ」のような役割として、子ども同士・保護者同士・地域の人同士・子どもと地域の人など、さまざまな関係におけるコミュニティを育む存在です。

    roppongi_01_re▲六本木園で行われた折り紙名人との折り紙の時間。子ども達はさまざまな人や価値観に出会い、多くを学ぶという

    レッジョ・エミリア教育との連携

    レッジョ・エミリア教育は、専門的に様々な理論や教育思想を土台にしながら、コミュニティ(共同性)の中で、子ども主体の豊かな保育がなされる教育メソッド

    まちの保育園・こども園では、そんなレッジョ・エミリア教育と理念をともにしている。世界34カ国が加盟する、レッジョ・エミリアの「国際ネットワーク」に、日本で唯一加入しています。レッジョ・エミリアの教育者と日本の保育者の対話の機会や、代々木公園の園に併設された学びのセンター(CCLC)で、共同で、展覧会や研修を企画していたり、実際に現地視察も含めたの研修コーディネートをするなどの交流を続けています。

    ◆対話の力

    まちの保育園・こども園では子ども、保育者、保護者、地域の方など、お互いの思いを交換し合う「対話」のプロセスを大切にしています。

    子どもも大人も一人ひとり違った価値観を持っているからこそ、子どもにかかわるすべての人が、お互いの想いをオープンにして「私はこう思うけれど、あなたはどう思う?」と対話をしながら、いっしょに考えていく姿勢を大切にしています。

    【活動例】こんな取り組みをしています!

    ここからは、まちの保育園・こども園5園それぞれの、魅力的な取り組みを紹介していきましょう。

    多様な人々の交流の拠点にー六本木園

    ビジネスマンや外国人、観光客など日々さまざまな人で賑わいをみせる六本木に園舎を構えるまちの保育園 六本木は、子育てひろば、共に育ち合う講座の開催や、地域の人とともにつくるコミュニティガーデン「まちのガーデン」の設置(2018年に終了)など、地域の人々の交流の拠点となっています。

    併設するスタンド型の店舗「まちの本とサンドイッチ」では近隣の方や、ビジネスマン、保護者達が子ども達の姿を感じながら、サンドイッチやコーヒーを片手に一休みする姿も見られます。

    まちの本とサンドイッチ▲六本木の園の隣にある「まちの本とサンドイッチ」

    あるときは、子ども達が鳥に興味を持ったことがきっかけで、近隣企業で活動をされている「鳥博士」に話を聞きに行くことになったことも。

    フィールドワークを行ったり、イチから小鳥の巣箱を設計し、許可を取って街の木に設置したり……子ども達の学びが広がったのだそう。

    ▲鳥博士の話に熱心に耳を傾ける子ども達。まちの保育園・こども園では、ときに地域の方が子ども達の「先生」になる
    手作りの巣箱▲「小鳥が入ってくれるように……」と、子ども達が趣向を凝らして作った巣箱
    岩井先生
    岩井先生
    【まちの保育園 六本木 園長/岩井 久美子先生】
     
    港区六本木と聞くとどのような事をイメージされますか? まちの保育園六本木がある地域は、サントリーホールや大使館、資料館等があり、とても文化的で多様性に富んでいます。
     
    まちの保育園 六本木は、そんな六本木の街なかに建つ、47階の仙石山森タワーの1階に本園(0・1・2歳児)、建物続きの仙石山テラスに分園(3・4・5歳児)を設けています。
     
    私達は、一日の長い時間「生活する場」である保育園が、子ども達にとって安心できる居場所となること、そして「育ちの場」でもある保育園が、子ども達一人ひとりが遊び込めるような大好きな場所・玩具・道具・暮らしの環境であることを大切に考えています。
     
    子どもを真ん中に大人達も「共に育ちあう」関係性を大切にしている六本木園。さまざまな人が出会い、つながり合い、子どもは一人ひとり「その子らしく」、そして大人も「その人らしく」みんなが認め合える関係が、豊かに根付いています。

    屋上庭園が育んだ地域との絆ー吉祥寺園

    幅広い年代に人気の街、吉祥寺に園舎を構えるまちの保育園 吉祥寺。

    特徴のひとつである「屋上での野菜づくり」では地域で「ごみ発生の少ない街」「きれいな街」をモットーに活動するクリーンむさしのを推進する会という市民団体さんと子どもたちとがかかわりあいながら、さまざまな作物を育てています。

    今では生ごみから肥料を作り、食べるまでの工程を教えていただく活動が園の恒例となっています。

    土づくりの様子▲クリーンむさしを推進する会の皆さんとの「生ゴミからの土づくり」の様子
    庄司先生
    庄司先生
    【まちの保育園 吉祥寺 園長/庄司 みゆき先生】
     
    吉祥寺園では、「学び合う・分かち合う・支え合う」関係を大切にしています。

    『生ゴミからの土作り』もそのひとつ。地域の市民団体の方々にかかわっていただきながら、屋上でいろいろな野菜を育て、収穫する楽しみや食べることの喜びをみんなで分かち合い、それらの体験から学んでいます。

    職員一同、
    「ひとをおもう、自分も思う」
    ……自分を大切にし、他者を尊重できること
    「ひとと、こころに火を灯す」
    ……人と学びあい育ち合うことができ、文化的な生活を送ること
    「そのままが素敵、感謝と共に」
    ……様々な事や人に感謝の気持ちを持ち、自分らしく生きること
    という3本の柱を大切にしながら保育をしています。

    子どもの興味が園と地域をつなぐー小竹向原園

    池袋からほど近い小竹向原は、子育て世帯も多く、穏やかな雰囲気が魅力的なまち。

    そんな住宅街の一角に園舎を構えるまちの保育園 小竹向原は、まちの保育園・こども園の一号園。敷地内には地域の人が利用できるカフェがあり、地域とのつながりを感じられるようになっています。

    にぎわうまちのパーラー入口▲園の敷地内にある「まちのパーラー」は保護者だけでなく近隣の住人や仕事帰りのビジネスマンなど毎日多くの人が訪れる

    あるときは、「汽車がつくりたい!」という子ども達の声がきっかけで、汽車や線路、まちなどの模型を作って展示する大掛かりなプロジェクトに発展したことも。

    CCが橋渡し役となって、園の近くにある日本大学芸術学部の先生に話を聞きに行き、学びや発見のよい機会を得ることができたのだそう。

    まちのはくぶつかんの様子▲子ども達の興味から生まれたまちの模型。汽車を作りたいという興味は、壮大なまちづくりへと発展していったという
    立川先生
    立川先生
    【まちの保育園 小竹向原 園長/立川 恵美子先生】
     
    閑静な住宅街に一見保育園とは思えない外観。木やレンガのぬくもりや大きい窓から差し込む光が気持ちのいい園舎。
     
    まちの保育園 小竹向原は、生活の場として自然に近い環境が特徴であり、子どもも大人も心地よく過ごしています。また、隣に「まちのパーラー」があることでさまざまな人が訪れる建物でもあります。
     
    近隣には、大学が3つあり学生が多く、文化的なものに親しんでいる人が多い町です。
     
    小竹向原園は現在5園あるまちの保育園・こども園のなかで最初に設立された園。そのため「前例」というものがないなか、これまで都度工夫しながら運営してきました。
     
    私達の園では、経験や年齢問わず職員一人ひとりの意見、個性、人生を大切に対話を重ねています。また、常にこどもを中心に考え、こどもの興味から学びにつなげることや、「素材」との出会い・かかわり、探究する時間、発見した瞬間を大切にしながら、保育をしています。
     
    まちづくりにおいて「正解」というものはありません。だからこそ、職員や保護者・地域の方々みんなで学びあっています。

    保護者とのつながりも大切な「まちぐるみ」ー代々木上原園

    静かな住宅街に園舎を構えるまちのこども園 代々木上原では、先日5歳児クラスで飼育するおたまじゃくしのエサを、近所の商店街で蕎麦屋を営む方にお願いし、もらいに行ったのだそう。

    園と蕎麦屋のご主人の間をつないだのは、お店の常連だった子どもとその保護者。

    身近な保護者や子ども達の家庭とつながりを持つことも、ひとつの立派な「まちぐるみの保育」の形です。

    福田先生
    福田先生
    【まちのこども園 代々木上原 園長/福田 由紀子先生】
     
    お蕎麦屋さんを紹介してくれた子が「僕が紹介したんだよ!」って自慢げだったのが可愛らしくて印象的でしたね。
     
    開園からまだ3年目の代々木上原園は、まさにこれから「みんなで作りあげていく子ども園」。園の中や園庭の環境整備についても、子ども達や保護者の方などのご協力を得ながら、少しずつ整えています。
     
    子ども達が自分で考え遊び込み、「今日は楽しかった」「明日はこの続きをしよう!」とワクワクできる場所にしていきたいですね。

    東京大学との共同研究の拠点にもー代々木公園園

    代々木公園の中にあるまちのこども園 代々木公園は、東京大学とともに、園の実践を通じて「保育の質」について共同研究を行う拠点としての役割も担っています。

    園には「CCLC」=The Children and Community Learning Centerという、国際的に幼児教育・保育を研究していくセンターが付属しており、コミュニティのための「学び合い」の場として活用されています。

    山岸先生
    山岸先生
    【まちのこども園 代々木公園 園長/山岸 日登美先生】
     
    明治神宮の森、原宿・表参道……渋谷はカルチャーのまちとして知られています。まちのこども園 代々木公園は、そんな渋谷のなかで、新しさと伝統が入り混じる場所「代々木公園」の中にあります。
     
    樹々の移ろいや草花、虫、季節の匂い、公園に訪れる人々……。都会にありながらも自然を享受できるこの場所で、私達は子どもの声に耳を傾け、子どもの姿に心を向け、子ども達と共に探求し保育をしています。
     
    自然の変化、街の変化を楽しみつつ、私たち大人も子どもとともに成長していきたいですね。
     
    また、大人も子どもも「自分らしく」いられる場所になるように、保育者同士、お互いを尊重し、丁寧に対話的に子どもの有能性を語り合う仲間でありたいと思っています。
     
    これからの時代、保育教育はどんどん変化していくでしょう。新たな挑戦を楽しんでいきたいです。

    まちの未来を照らす子ども達の存在

    子ども達を真剣に見つめ、まちとともにその育ちと向き合っているまちの保育園・こども園。

    代表の松本さんに、園のこれまでの歩みと未来への目標についてお話を聞かせていただきました。

    ――「まちぐるみの保育」の着想を得てから約20年、まちの保育園 小竹向原の開園からは9年経ちますが、松本さんが考えていた理想は実現できていますか?

    松本:この20年の間に世の中はずいぶんと様変わりしました。しかし、20年前に僕が考えたビジョンは、当初の予想を大きく上回って形になってきていると感じます。

    まちの保育園・こども園も直営は5園にまで増えましたが、僕が思い描いていたよりもずっと多くの方に共感や賛同をいただき、これまでたくさんの地域の方々が僕達の活動に参画してくれました。そのことは本当にありがたいことだと思っています。

    子ども達にも、僕ら園の人間だけでは成しえなかったような充実した学びの環境を提供することができている……そう思いますね。

    ――子ども達にも変化が見られましたか?

    松本:そうですね、地域の多くの方が私達の活動に参画してくれたと言いましたが、それは保育者がよかれと思って提供しているのではありません。その状況を主体的に切り開いているのは、じつは子ども達自身です。

    子ども達自身が、まちを活かすアイデアを持ちはじめているんですよね。

    ――まさに「こどもの力」を信じてきた成果ですね。

    松本:子ども達の力を信じて学びの環境を整えると、子ども達がさまざまな学びの姿を見せてくれる。それこそ大人達には想像もつかないような発見や気づきをして、そこから学んでいくんですよね。

    すると、地域の人も子ども達の成長する姿を面白いと思ったり、励まされたりして、より積極的にかかわってくださったり。

    これからも、子ども達とかかわり、ぜひ自己実現のためにも、園を使っていっていただけたらと思っています。

    ――子どもに対する周囲の見方も、かかわり方も大きく変わっていく、と。

    松本:実際、高齢の方のなかには「子どもへの印象が変わった」という声も多いんですよ。

    少し大げさな言い方になってしまうのですが、子ども達の存在が、まちの「希望」になっているとしたら、とても嬉しいことだなと感じています。

    松本さん横顔▲「まちぐるみの保育」が生み出すものの豊かさや価値は理想をはるかに超え、「いまや僕ひとりで語ってはいけないもののように思う」と語ってくれた松本さん

    「共創」のネットワークを築いていきたい

    ――最後に、これからまちの保育園・こども園が目指したいことはなんでしょうか

    松本:僕は、保育・教育においては「競争」ではなく「共創」の視点が大切だと思っています。

    一般的に営利目的の企業では、自社のノウハウを外に出すということはしませんが、子どもにとってよいことを隠す必要なんてないじゃないですか。

    むしろその情報をオープンにして、共有する……そんなネットワークを築いていくことが大切だと考えています。

    園によって、さまざまな理念やアプローチの方法があっていい。違いがあるからこそ気づき、学び合えるような関係性を築いて、それぞれの園がよりよい子どもの育ちに向けて進歩していけたらと思いますね。

    ――子どもの育ちにかかわるもの同士が互いに学び合う、ということですね。

    松本:そうですね。現在、まちの保育園・こども園には、同じ志を持って学び合う「アライアンスパートナー」となっている保育施設が全国にありますが、これからも、さまざまな人と多面的に保育・教育を考えるネットワークを豊かにしていきたいですね。

    また、将来的には、小学校や中学校との連携も深めていきたいなと考えています。

    より深く、幅広く、学び合いによって高め合える関係性を築いていきたいですね。

    子どもを育てること、よりよい社会をつくること

    ――今回お話をうかがって、保育の明るい展望を垣間見た気がしました

    松本:「保育園・こども園は、日本元気にするためのひとつの拠点になる」。ここまで「まちぐるみの保育」を実践してきて、私達はそう感じています。

    さまざまな人が学び合い、学びで人と人とがつながりあう……。それは子ども達によい影響を与えるだけでなく、社会にとっても大きな価値のあること。

    園がひとつの拠点となり、地域とともによりよい社会を、未来を「共創」していくことができたらいいなと思いますね。

    笑顔の松本代表▲「教育は社会を追いかけるものではなく、社会をつくるもの」と語ってくれた松本さん。子どもにとってよい学びの環境を考えることは、よく生きられる社会に想いを馳せることと同じことなのかもしれない

    編集者より

    ハートのイラスト
    少子化や子育ての孤立が進む現代において、地域とのつながりというものは本来自然と求められるべきものなのでしょう。

    しかし今、保育園の騒音問題や近隣住民による設立の反対運動、安全の問題など、子どもや子育て世帯あるいは保育を取り巻く地域の環境は、無条件に「よい」とは言い難い状況にあります。

    まちの保育園・こども園の取り組みは、そんな社会全体に対して「ともに歩む」という前向きな解決策を投げかけてくれるものだと感じました。

    「子どもから大人が学ぶことだってある」
    「子どもの存在が大人の日常をより豊かにしてくれる」

    古き良きコミュニティでは、もしかしたらそれがごく当たりまえのことだったのかもしれません。

    社会に新たな風を吹き込むとともに、そんなコミュニティのありかたの「原点」をあらためて見せてくれる……そんなまちの保育園・こども園の取り組みが、今後どのように広がり発展していくのか。とても楽しみに思います。

    ◆「まちの保育園・こども園で働きたい!」と思った方は……◆

    まちの保育園・こども園では、保育スタッフや調理スタッフなどを募集しています!

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