知っているようで知らない「保育教諭」という職種。
認定こども園が増える現在、欠かせない存在です。
今回は保育者さんや保育学生さんへ「保育教諭」の基本から最新の特例措置の状況などをわかりやすくお伝えします。
「保育教諭」とは
まずは、「保育教諭」の概要を説明します。
・幼保連携型認定こども園で保育・幼児教育にあたる職員の総称
・原則「保育士」「幼稚園教諭」の両方の免許を取得し、保育・幼児教育のふたつの領域での専門性をもっている
第十四条 (職員)
幼保連携型認定こども園には、園長及び保育教諭を置かなければならない。
(中略)
10 保育教諭は、園児の教育及び保育をつかさどる。
引用:「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」
2015年度から始まった「子ども・子育て支援新制度」にて、保育所(児童福祉施設)と幼稚園(学校)の両方の機能をあわせもった「幼保連携型認定こども園」が創設されました。
それにともない、「幼保連携型認定こども園」で保育にあたる職員は「保育教諭」と呼ばれるようになりました。
「保育教諭」は原則「保育士」「幼稚園教諭」の両資格を保有した者が就くように定められています。
しかし当時、保育所・幼稚園で働く人の中の約1/4は「保育士」「幼稚園教諭」のどちらかしかもっていませんでした。
そのような人達にも働き続けてもらうために、働きながらでも簡単にもう一方の資格が取れるような「特例措置」が実施されました。
経過措置と特例制度
改正認定こども園法が施行された2015年度から5年間は、「保育士」または「幼稚園教諭」どちらかをもっていれば、幼保連携型こども園でも「保育教諭」として勤務できる経過措置を設けていました。
この「経過措置」期間中にもう一方の免許・資格を取得する必要がありました。
しかし、養成校に通い、長い時間の授業や実習を経て免許を取得する必要はありません。
比較的簡単にもう一方の免許を取れる制度が特例制度です。
この特例制度を利用しこれまで3万3,000人以上の保育者達が、未取得だったもう一つの資格を取得してきました。
【NEW】特例措置は2025年までに!さらに5年間の延長へ
この特例措置・特例制度によって両方の免許を取得する保育者は増えた一方、年々増えるこども園に対してまだまだ保育教諭が足りていないのが現状です。
これから保育教諭が求められていることは間違いありません。
そこで、これらの制度は改正認定こども園法が施行された2015年度から5年間の2019年度末までとされていましたが、さらに2024年度末まで延長されました。
「保育士資格のみ」もっている人は?
ここからは、保育士資格を所有している場合の特例制度の活用法を紹介します。
●以下の施設で保育士として 「3年かつ4,320時間以上の勤務経験」がある
・認定こども園(幼保連携型、幼稚園型、保育所型、地方裁量型)
・ 幼稚園(特別支援学校の幼稚部含む)、保育所
・「認可外指導監督基準」を満たす認可外保育施設(一部対象外)、へき地保育所
・ 幼稚園が設置する認可外保育施設 、公立の保育施設
指定の大学にて以下の8単位を修得する
- 教職の意義及び教員の役割、教員の職務内容(2単位)
- 教育に関する社会的、制度的又は経営的事項(2単位)
- 教育課程の意義及び編成の方法(1単位)
- 保育内容の指導法、教育の方法及び技術(2単位)
- 幼児理解の理論及び方法(1単位)
「幼稚園免許特例講座」というパッケージコースが開講されていたり、通常の大学の一部単位を修得します。
詳細は文部科学省のサイトからご確認ください。
「幼稚園教諭免許のみ」もっている人は?
つぎに、幼稚園教諭免許のみをもっている場合も見てみましょう。
●幼稚園教諭免許状を取得後、幼稚園等において「b>3年かつ4,320時間以上の勤務経験」実務経験がある
・幼稚園(特別支援学校幼稚部含む)・認定こども園 ・保育所
・小規模保育事業(法第6条の3第10項に規定する小規模保育事業(家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準(平成26年厚生労働省令第61号)第27条に規定する小規模保育事業A型及び小規模保育事業B型に限る。))を実施する施設
・事業所内保育事業(法第6条の3第12項に規定する事業所内保育事業(利用定員が6人以上の施設)を実施する施設 ・公立の認可外保育施設 ・へき地保育所
・幼稚園併設型認可外保育施設
・認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書が交付された認可外保育施設
●保育士試験を受験して合格する
●養成校にて以下の指定科目を取得する(最大8単位)
- 福祉と養護 【2単位】
- 相談支援 【2単位】
- 保健と食と栄養 【2単位】
- 乳児保育 【2単位】
学校に通うことが難しいという場合は、保育士試験を受験するのがシンプルな方法です。
今回の特例制度とは関係なく、幼稚園教諭の免許をもっていれば、保育士試験の「保育の心理学」「教育原理」と「実技試験」が免除になります。
特例制度を活用する場合、上記の8単位を全て修得すれば保育士試験の受験の必要はありません。
さらに自分が卒業した養成校で修得した単位で、上記の指定8単位の中に重複がある場合は、その単位を改めて修得する必要はありません。
また、指定の一部単位を学校で取得し、保育士試験の一部科目を受ける、という併用も可能です。
詳細は厚生労働省のサイトからご確認ください。
「資格はない」けどこれから保育教諭になるには?
まだ、保育士・幼稚園教諭の資格を取得しておらず、これから「幼保連携型認定こども園で保育教諭として働きたい!」と考えている方は、以下の2パターンの方法で「保育士」・「幼稚園教諭」の両資格を取ることができます。
①学校で二つの資格を同時に取得
②保育士試験や養成校の通信教育などを用いて別々に取得
「将来は子ども関係の仕事に就きたいけど……」と進路にお悩み中の学生さんなどはぜひ「保育士」・「幼稚園教諭」両方の資格取得ができる学校を選んでみてください。
既に働いていて、まとまった時間が取れない方の場合は、年に2回開催されている「全国保育士試験」を受験して「保育士」資格を取得して、さらに大学の通信教育を利用して「幼稚園教諭」の免許も取得するというパターンもあるでしょう。
保育教諭の需要は今後ますます高まる
幼稚園は閉園したり、認定こども園に移行するなどその数は減少傾向にあります。
一方で、認定こども園は創設以降そのニーズの高さから年々増加しています。
・認定こども園は762園(2011年度調査)→6,160園(2018年度調査)まで増加
※参考:内閣府「令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の 経営実態調査集計結果<速報値>」
「保育教諭」の働き方
幼保連携型認定こども園で働く保育教諭。
「保育と教育」両方の専門性をもったプロフェッショナルとして働くことが求められます。
それでは「保育教諭」としてどんなことを意識すべきで、どのようなキャリアプランを描くことができるでしょうか?
保育園・幼稚園→こども園の場合、戸惑うことも
幼保連携型こども園の大きな特徴のひとつが1~3号認定の子どもが一緒に過ごすということです。
1号認定とは従来幼稚園に通う枠組みであった、15時頃までの短時間で降園する3~5歳の子ども達です。
こども園では、0~5歳の登園・降園時間が異なるこども達が集うのです。
慣れていない保育者は最初は少し混乱するかもしれません。
また、幼保連携型認定こども園は原則1日11時間、土曜日も開園しています。
したがって、保育所と同様、早番・遅番、土曜日出勤のシフト体制になることを心得ておきましょう。
幼稚園からこども園に転職した人などは、シフト体制に慣れるのに時間がかかるかもしれません。
気になる保育教諭のお給料は?
最新の調査では、認定こども園で働く保育教諭の平均月給は279,954円、平均勤続年数は8.2 年です(※)。
幼稚園や保育所で働く人に比べて、高い給料であるとは言えません。
その原因は幼保連携型認定こども園運営元が社会福祉法人や学校法人などに限られているからです。
その分、保育士と同等の処遇改善や家賃補助を得られる可能性は高いです。
また、歴史ある園が多く、「地域に根付いた保育・幼児教育をしたい」と考えている方はぜひ認定こども園で働くことを視野に入れてみてください。
※私立の認定こども園・常勤職員の場合
※参考:内閣府「令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の 経営実態調査集計結果<速報値>」(令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の 経営実態調査集計結果<速報値>)
幼保連携型認定こども園で働く上で意識したいこと
幼保連携型認定こども園において重視したい事項は「幼保連携型認定こども園
教育・保育要領」に明記されています。
-
- ●入園した年齢や集団生活の経験年数、生活リズムや保護者の生活形態など総合的に配慮する
-
- ●0歳から小学校就学前までの一貫した教育及び保育を園児の発達や学びの連続性を意識する
-
- ●環境を通して行う教育及び保育の活動の充実をめざし、子どもの発達だけでなく地域の特性なども考慮する
-
- ●一日の生活のリズムや在園時間が異なる園児が共に過ごすことを踏まえ、活動と休息、緊張感と解放感等の調和のとれた指導計画をたてる
-
- ●生命の保持や情緒の安定を図るなど養護の行き届いた環境で保育・教育を展開する
-
- ●健康及び安全は、園児の生命の保持と健やかな生活の基本であり、十分に配慮する
- ●保護者が子どもの成長に気付き子育ての喜びが感じられるよう、幼保連携型認定こども園の特性を生かした子育ての支援に努めて、子育て支援をおこなう
参考:「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」「幼保連携型認定こども園として特に配慮すべき事項」
「幼保連携型認定こども園教育・保育要領解説」においても、「教育・保育の基本」として乳幼児期にふさわしい生活や遊びがおこなわれること、そして園児一人ひとりの特性や発達の過程に応じた指導が行われるように示されています。
こども園での経験は幅広いキャリアが築ける
多様な子ども達が通うこども園では、保育・教育異なる専門性をかけ合わせて日々子ども達と向き合うことになり、保育・教育の両面で知見・経験を積むことができます。
こども園で得られた総合的な知識・経験は転職する際にもきっと有利になるでしょう。
保育所・幼稚園・こども園だけでなく、児童福祉施設や療育の現場などキャリアの選択肢も広がります。
「主幹」と「指導」保育教諭のキャリアアップ
保育教諭には保育士や幼稚園教諭のように職種(役職)があります。
「主幹保育教諭」と「指導保育教諭」という職種で、経験を積むことでキャリアアップが見込めます。
職種 | 平均月給(賞与込み) | 平均継続年数 |
---|---|---|
主幹保育教諭 | 375,965円 | 19.2年 |
指導保育教諭 | 336,739円 | 14.1年 |
保育教諭 | 279,954円 | 8.2年 |
※私立の認定こども園・常勤職員の場合
※参考:内閣府「令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の 経営実態調査集計結果<速報値>」
それでは「主幹保育教諭」と「指導保育教諭」について詳しく見ていきましょう。
主幹保育教諭
まずは「主幹保育教諭」の説明を見てみましょう。
8 主幹保育教諭は、園長(副園長又は教頭を置く幼保連携型認定こども園にあっては、園長及び副園長又は教頭。第十一項及び第十三項において同じ。)を助け、命を受けて園務の一部を整理し、並びに園児の教育及び保育をつかさどる。
引用:「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」
教育・保育のプロフェッショナルなだけでなく、副園長や教頭に次いで園長の補助を行い、園務を整理するなど園全体を見渡し総合的なマネジメントを担う職種であることが分かります。
主幹保育教諭になるには
保育経験が概ね10年以上あり、働いている施設の園長などから推薦を受けた上で特別養成講座を受講しなければなりません。
特別養成講座は以下のような目的・内容です。
1保育内容の質的充実をはかる)
2保育のリーダーとしての力量を高める
3 技術を磨く・保育のスーパーバイザーとしての知識
4 地域社会への子育て支援における役割を担う力量を高める
5実践研究の進め方を会得する
引用:全国保育士会「第32期主任保育士・主幹保育教諭特別講座 募集要項」
課題のレポート・論文にくわえ、前・後期7日間の講習を受ければ、はれて「主幹保育教諭」になることができます。
指導保育教諭
「指導保育教諭」についてもみていきましょう。
9 指導保育教諭は、園児の教育及び保育をつかさどり、並びに保育教諭その他の職員に対して、教育及び保育の改善及び充実のために必要な指導及び助言を行う。
引用:「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」
名前からわかるように保育者の指導に重きが置かれていることがわかります。
2007年の「学校教育法」改正によって、若手育成のために「指導教諭」という職種が創設され、これに倣い「指導保育教諭」の職種ができたのだと推測できます。
保育・幼児教育の現場での「指導保育教諭」のなり方は特に法律で定められていないようですが、「子どもへの保育・教育だけでなく保育者の育成にも興味がある!」という方は上司に聞いてみたりアピールしてみましょう。
編集者より
保育・幼児教育の重要性がようやく社会に認められ始めた今、「保育教諭」はますます必要とされている仕事です。
現在、保育系資格をもっている方はもちろん、これから子どもと向き合う世界に進もうとしている方々の参考になりましたら幸いです!
参考文献・サイト
- 内閣府「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」(2019/10/30)
- 内閣府「幼保連携型認定こども園教育・保育要領解説」(2019/10/30)
- 厚生労働省「幼稚園教諭免許状を有する者における保育士資格取得特例」(2019/10/30)
- 文部科学省「幼稚園教諭の普通免許状に係る所要資格の期限付き特例」(2019/10/30)
- 文部科学省「幼保連携型認定こども園と保育教諭」(2019/10/30)
- 内閣府「新制度施行後5年の経過措置に係る事項の対応について」(2019/10/30)
- 文部科学省「学校基本調査-結果の概要」(2019/10/30)
- 朝日新聞デジタル「こども園の園児が急増、幼稚園児の6割に 文科省が調査」(2019/10/30)
- 厚生労働省「特例制度の概要」(2019/10/30)
- 猪熊弘子/コトバンク「保育教諭」(2019/10/30)
- 内閣府「子ども・子育て支援新制度について」(2019/10/30)
- 内閣府「令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の 経営実態調査集計結果<速報値>」(2019/10/30)