保育ノウハウ

物的環境とは|保育における意味や構成要素、計画のポイントを解説

日々の保育の中で「どうしてこの子は落ち着かないんだろう……」「遊びに集中できないのは何が原因なの?」と悩むことはありませんか。

クラスが落ち着かないときは、物的環境を見直してみることが大きなヒントになるかもしれません。保育室のレイアウトや園庭、玩具、絵本などの物的環境は、子どもたちの行動や気持ちに関わっており、その子らしさを引き出す大切な土台です。環境を少し変えるだけで、子どもが安心して過ごせるようになったり、遊びに集中できたりすることもあります。

本記事では、物的環境の意味や整備するときのポイントを紹介します。記事を参考に環境を見直してみてください。

【この記事で分かること】

  • 物的環境とは
  • 物的環境の重要性
  • 物的環境の構成要素
  • 物的環境を整備するポイント

物的環境とは

物的環境とは
物的環境とは、保育室の玩具や教材、絵本などの日常的に使用する物から、園庭の遊具まで子どもたちが関わる全ての物理的な物を指します。

物的環境は、保育環境を構成する重要な要素です。保育の質に直接的な影響を与え、子どもたちの成長と発達を支える基盤となります。

物的環境は保育の環境構成の要素の一つ

物的環境は、保育における環境構成の中の一つの要素です。子どもたちの発達に応じて環境全体を適切に工夫・調整していくことで、園での生活はより豊かで充実したものになります。

環境構成には、物的環境の他に次のような要素があります。

  • 人的環境
  • 自然環境
  • 社会的環境

これらの環境は、それぞれが独立して存在するのではなく、互いに影響し合いながら子どもの育ちを支えています。4つの環境が調和することで、子どもたちにとってより良い保育環境が生まれます。

物的環境の重要性

物的環境は子どもの成長と発達に重要な影響を与えることが、数多くの研究や実践を通じて明らかになっています。適切に構成された物的環境は、子どもの健やかな発達を支える基盤となるでしょう。

安全を最優先に確保し、危険性のない環境で安心して活動できる場を提供すれば、子どもたちは自由にのびのびと成長できます。子どもの興味や関心に合った環境を用意することで、主体的に関わろうとする姿や、創造的な遊び、学びへの意欲が少しずつ引き出されるでしょう。

環境構成の際は、年齢や発達段階に合わせた遊具や教材を提供することが重要です。適切な環境を作ることで、運動能力や認知能力の向上はもちろん、感覚機能の発達など、心身の調和のとれた成長を促進できます。

他の子どもたちとの関わりが持てる工夫された空間作りも、安定した情緒の発達を促します。協調性や思いやりの心、コミュニケーション能力といった社会性の成長につながり、人間関係の基礎を築けるでしょう。

【監修者・礒部はるかのアドバイス】

物的環境は、子どもの「やってみたい!」を引き出す大事な土台です。例えば、お正月の時期に、手回しこまの製作コーナーを保育室の一角に設け、見本や材料を用意したところ、子どもが自発的に製作を始めていたのを覚えています。こまを回すスペースも確保したので、「作る」「遊ぶ」という一連の流れが自然に生まれました。こうすることで、子どもたちの意欲や達成感がより深まり、遊びが豊かに広がります。

物的環境の構成要素

ここでは、保育施設での物的環境の具体例を詳しく見ていきます。

<物的環境の構成要素>

  • 保育空間:室内のレイアウト・園庭
  • 設備・家具:棚、机、椅子、ロッカーなど
  • 遊具・玩具:発達を促す多様な選択肢
  • 教材・素材:絵本、製作材料など

保育空間:室内のレイアウト・園庭

子どもが過ごす保育空間そのものが物的環境です。その中には、保育室の広さや自然採光、換気など、子どもたちの健康と快適性を確保するための要素が含まれています。園庭や固定遊具、砂場なども子どもたちの成長を支援する物的環境の要素です。

空間は子どもの行動パターンや心理状態に与える影響が大きいです。開放的な空間は活発な活動を促し、落ち着いた小空間は安心感をもたらすなど、空間の特性が子どもの心身の発達に深く関わっていることを理解しておきましょう。

設備・家具:棚、机、椅子、ロッカーなど

保育室内に配置される基本的な設備や家具は、子どもたちの学びや発達を促進し、保育環境の質を大きく左右する重要な要素といえます。

机や椅子は子どもの体のサイズに合った物を選ぶことで、子どもたちが自主的に活動できる環境を整えるだけではなく、正しい姿勢を保ち、健康的な発達を促すためにも欠かせない要素です。年齢や発達段階に応じて、調整可能な家具を選択することも考えた方が良いでしょう。

設備や家具を選ぶ際は、角が丸い物や安定性がある物を選びましょう。特に、衝突や転倒時のけがを防ぐため、耐久性があり清潔に保てる素材選びも重要なポイントです。

遊具・玩具:発達を促す多様な選択肢

遊具や玩具は、子どもの自主性や創造性を育む大切なきっかけとなります。遊びを通して、子どもたちはさまざまな経験を重ねながら、社会性や感性も少しずつ育っていきます。

選ぶ際には、年齢や発達の段階を踏まえた上で、子どもの興味・関心、運動能力、個々の特性、さらには季節ごとの楽しみなどにも目を向けていくと良いでしょう。

保育室に玩具を設置するときは、子どもが自分で遊びを選びやすくなるように、見やすく手の届く位置に置いたり、片付けやすい収納方法を工夫したりするのが効果的です。種類ごとに分けておくと、自然と物の分類や整理の感覚も育っていきます。

また遊具や玩具が子どもの年齢に合っているか、壊れていたり劣化していたりしないかなど、定期的な点検と管理も大切です。特に乳児が使うものについては、誤飲やけがのリスクを避けるために、安全性に十分配慮しましょう。衛生面では、消毒や清掃をこまめに行い、安心して遊べる環境作りがポイントです。

教材・素材:絵本、製作材料など

教材や素材は、子どもたちの創造性や興味を引き出す上で、日々の保育に役立つ大切な要素です。

例えば絵本は、想像力を広げたり、言葉に親しむきっかけになったりします。年齢や季節、行事に合った内容の物を取り入れたり、定期的に入れ替えたりすると、子どもたちにとってより身近な存在になります。手に取りやすく見やすい配置も工夫していけると良いでしょう。

製作に使う素材は、子どもの発達段階や興味に合わせて、さまざまな質感や特徴のあるものを用意できると活動の幅が広がります。安全面に配慮しつつ、子どもが自由な発想で表現できるような素材をそろえることもポイントです。また廃材を活用すると、創造力を育てる良いきっかけになります。

さらに、木の実や葉っぱなどの自然物を取り入れることで、季節の変化に気付いたり、五感を使った体験的な学びにつながったりします。散歩の中で子どもたちと一緒に自然物を集める時間も、豊かな活動の一つです。製作活動の素材としても活用でき、環境構成の中に季節感を取り入れる手助けにもなります。

物的環境を整備する上でのポイント

物的環境を整備する上でのポイント
物的環境の整備は、子どもたちの健やかな成長と発達を支える重要な要素です。以下では物的環境を整備するための、具体的なポイントについて解説します。

<物的環境を整備する上でのポイント>

  • 安全・衛生の意識
  • 子どもの発達段階に応じた環境作り
  • 子ども目線に立った環境作り
  • 空間の広さの工夫
  • 人的環境との連携

安全・衛生の意識

物的環境において安全・衛生は、子どもたちが安心して活動できる環境を整える上で、欠かせない要素の一つです。

遊具や設備については、定期的に点検・メンテナンスを行い、不具合や経年劣化に早めに気づけるようにすると安心です。点検記録や修繕履歴を残しておくことで、より確実な管理にもつながります。

誤飲やけがなどのリスク管理も重要です。施設内の危険な箇所をなくし、子どもたちが安全に遊べるよう以下の点検をしましょう。

  • 玩具の対象年齢表示の確認
  • 突起物や小さなパーツの定期的な点検
  • 遊具の角に適切な保護材の設置
  • 遊具の使用ルールの策定と指導

アレルギーや感染症への配慮として、素材選びや清掃・消毒を小まめに行うことも、安心できる環境作りにつながります。

災害に備えて、避難経路の確認や家具の固定、防災用品の配置なども定期的に見直しておきましょう。

子どもの発達段階に応じた環境作り

環境設定の際は年齢だけではなく、個々の子どもの興味関心や発達課題に合わせた環境を整えることが大切です。子どもたちが安心感を持ちながら無理なく挑戦できる環境作りを心掛けることで、自然な形で発達を促せます。子どもたちが、互いに刺激し合いながら共に活動できる環境作りを意識しましょう。

子どもたちは日々成長していくため、必要に応じて改善や修正を加えていきます。子どもの発達の様子を丁寧に観察し、そのときの子どもの状態に適切な環境を作りましょう。

【監修者・礒部はるかのアドバイス】

子どもの発達段階や個々の興味に応じた環境設定は、保育の質を高めるために不可欠です。乳児期には、色とりどりの布や音の出るおもちゃを使って、視覚や聴覚などの感覚刺激を促す素材を用意します。幼児期には、社会性を育むために積み木やブロックを使って、友だちと一緒に作品を作る活動を取り入れます。子どもの興味や関心を引き出すために、テーマ別のプレイゾーンを設けることも効果的ですよ。

子ども目線に立った環境作り

環境作りの際は、子ども目線に立ちましょう。どのような環境であると自発的に行動しやすいのか、スムーズに活動できる空間はどのようなものかなどを、子ども視点で考えていくことが大切です。

実際に子どもと同じ目線の高さまでしゃがんで、部屋の様子を確認したり、動線を意識しながら空間を見渡したりしてみると、新たな気付きが得られます。また子どもたちが日常的によく使用する場所や遊び道具への導線を実際に歩いてみると、より具体的な改善点が見えてくるでしょう。

物的環境は、子どもたちの日々の行動や反応を細かく観察しながら、改善を重ねていくことで、より良いものとなります。時には思い切った配置変更を試してみることも、新たな発見につながるかもしれません。

毎日の保育の中で気付いた改善点や、子どもたちの反応の変化などを具体的にメモに残しておいたり、保育者同士で積極的に情報共有を行ったりすることも、環境作りに生かせます。

空間の広さの工夫

多様な経験ができる時間と空間を作ることは、子どもたちの健全な成長と発達において重要です。集団で遊べる広い空間の他に、一人もしくは少人数で落ち着いて過ごせる小さな空間も必要といえるでしょう。

それぞれの空間で異なる種類の遊びや学びが展開されることで、より豊かな経験ができます。コーナーごとに適した広さや素材を用意し、子どもたちの年齢や発達段階を考慮して、安全に活動できる環境を整えましょう。

人的環境との連携

物的環境だけでは十分な教育効果を発揮できません。前述した環境構成の中でも、人的環境(保育者の関わり方や働きかけ、子どもたちとの関係性作り)との相互作用が重要です。物的環境と人的環境はつながりが深く、それぞれをうまく組み合わせることで、保育をスムーズに進めやすくなります。

子どもたちにより良い環境を作るには、保育士同士で積極的に連携を取り、日々の保育内容や環境構成について詳しく話し合うことが大切です。特に、子どもたちの発達状況や興味・関心の変化に応じて、環境をどのように調整していくかの意見交換が重要といえるでしょう。

話し合いを通じて保育のテーマやベースを決めれば、それぞれの得意分野を生かしながら、協力して保育環境を作り上げられます。

【監修者・礒部はるかのアドバイス】

私が務めていた保育園では、毎週のミーティングで保育士同士が環境構成について話し合う時間を設けていました。「もうすぐ節分の季節だから、〇日から×日までここに節分関連の製作コーナーを作りたい」「このおもちゃ収納の周りでいつも子ども同士がけんかをしているから、配置を見直したい」など、保育士同士で意見を出し合い、環境を調整していました。保育士同士の連携と情報共有を通じて、子どもたちにとってより良い環境を作り上げていくことはとても大切ですね。

まとめ

保育現場における物的環境は、子どもの成長と発達に直接的な影響を与える重要な要素です。保育室のレイアウトや園庭、玩具、絵本などの環境を少し変えるだけで、子どもが安心して遊べるようになったり、興味を持って活動に取り組めたりします。

環境を見直す際は、安全で清潔であることに加えて、子どもの発達段階に合っているかどうか、そして子どもの視点に立って考えられているかどうかにも目を向けることが大切です。

日々の保育に追われる中でも、ほんの少し環境を見直すだけで、子どもたちの姿は変わります。子どもたちの小さな変化を、ぜひ見つけてみてください。

「保育のお仕事」では、保育に関わる求人情報を取り扱っており、求人情報の閲覧から希望の求人への応募までサポートしています。転職を検討している方は、まずはLINEの友だち登録を行い「保育のお仕事」を活用してみてください。

監修者情報


礒部はるか

保育士資格・幼稚園教諭一種免許状を保有。大学卒業後、学童・児童館にて保育士として従事。その後、保育園にて乳幼児クラスを担当。現在は複数の保育メディアにてライター・編集者・監修者として活動。

よくある質問

物的環境とは何を指す?

物的環境とは、具体的には以下の物が該当します。

  • 園庭
  • 園舎
  • 遊具
  • 設備
  • 玩具
  • 絵本
  • 紙芝居
  • 製作材料(画用紙、クレヨン、粘土など)

これらの物的環境を、子どもの年齢や発達に合わせて、安全にも配慮しながら整えていくことが大切です。

物的環境はなぜ重要?

子どもたちが毎日を楽しく、そして安全に過ごすためには、環境の整え方がとても大切です。体を思いきり動かせるスペースや、年齢や発達に合った遊具があることで、健やかな成長につながります。また少しだけ難しいことにも挑戦できるような環境があると、成功体験を通じて自信を育むきっかけにもなります。

物的環境を整えるポイントは?

保育施設の環境整備は、子どもの安全を考えることが何より大切です。毎日の掃除と安全点検をしっかり行い、玩具や設備が安全かを確認してください。子どもが楽しく過ごせるよう、場所と時間を確保し、静かに遊ぶ時間と体を動かす時間をバランスよく設けるのも良いでしょう。

人とのつながりも大切な要素です。保育士が子どもたちを見守り、子ども同士の関係作りをサポートしてみてください。

ABOUT ME
保育のお仕事レポート
保育業界専門の転職支援サービス「保育のお仕事」です。 「保育のお仕事レポート」は、現場で働く保育士さんのためのメディアとして運営しています。お役立ち情報や最新の求人情報は各SNS(FacebooktwitterLINE@)で要チェック!
保育のお仕事 最新求人