女性が仕事と子育てとを両立し、生き生きと働くために必要な産休・育休制度。その制度は労働基準法や育児・介護休業法で定められた労働者の権利ではありますが、保育士さんの場合「人手不足で取りにくい」「妊娠したら退職するケースが多い」など、取得することが難しいイメージを持たれがちです。
今回は読者である保育士さんを対象に、産休・育休制度利用の実態を調査しました。
保育士は「産休・育休がとりにくい職業」52%
まず保育士という職業全体について、産前・産後休業や育児休業が取得しやすいと感じるか否かを調査しました。
保育士という仕事について「産休・育休が取りやすい職業だと思う」と回答したのは、全体のわずか20%。それに対し「産休・育休が取りにくい職業だと思う」という回答は52%、「どちらとも言えない」が28%という結果になりました。
「産休・育休が取りにくい職業だと思う」と回答された方にその理由を伺ったところ、職場全体の人数不足や、担任制という年度途中で抜けにくい体制などが、休業取得の弊害となっているという回答が多く見受けられました。
- ◆産休・育休が取りにくい職業だと感じる理由
- ・担任制のため、休みづらい雰囲気があるから。(30~34歳・保育士/正規職員・女性)
- ・代わりに入ることのできる先生がいるのか心配。現場の人数がいつもギリギリで回っているので体制が崩れてしまい迷惑をかけてしまいそう。(30~34歳・保育士/正規職員・女性)
- ◆どちらとも言えない理由
- ・申し出れば取得はできるが人員不足なので申し訳ない。(35~39歳・保育士/正規職員・女性)
職場の「産休・育休制度」整備の現状は?
次に職場における実際の産休・育休制度の整備状況について伺いました。
「あなたの職場では産休・育休制度が整っていると感じますか?」という質問については、「整っていると感じる」という回答が56%、「整っていないと感じる」という回答が30%。「どちらとも言えない」11%、「わからない」3%という結果になりました。
保育士という職業全体のイメージ調査とは異なり、半数以上の方が職場の産休・育休制度の整備を実感できていることがわかります。
しかし一方で、「制度が整っていない」と感じている方にその理由を聞いたところ、「取得自体は可能だが、職員数などの職場環境を考えると取りにくい(55%)」「十分な期間の休業ができない(50%)」「取得実績がない(25%)」など、制度自体はあるものの、その利用に課題がある現状が伺えました。
また、「どちらとも言えない」という回答からも
- ・産休は取れたが、育休は何度も欲しいと訴えても「難しい…厳しい。」と言われ、結局産後8週間で復帰した。(35~39歳・保育士/パート・アルバイト・女性)
- ・育休を取っている人もいるが、出産ギリギリまで働いている人が多い。(40~44歳・その他保育職・女性)
など、制度の十分な活用の難しさや、産休・育休のうち特に育児休業取得の難しさが感じられました。
取得自体は7割以上ができている
続いて、職場で産休・育休を実際に取得した方の有無を伺ったところ、休業取得者が「いる」という回答が74%、「いない」という回答は12%にとどまりました。
産休や育休の取得そのものは、多くの園で実績があることが調査結果から伺えます。
産前・産後休業はどれくらい取れる?
「現在の職場で産休・育休を実際に取得したことがある」と回答された29%の回答者の皆さまに、実際の休業取得状況を伺ってみました。
まず、出産予定日の6週間前(双子以上の場合には14週間前)から請求すれば取得できる「産前休業」について、どれ位の期間取得できたかを聞いたところ、「6週間以上」が過半数の53%、続いて「5~6週間(37%)」、「3~4週間(11%)」という回答結果になりました。
一方産後休業の取得期間については、産後6週間~7週間で職場に復帰したという方が11%、それ以外の89%は法律上取得ができると定められる8週間以上、取得ができたと回答される結果になりました。
育児休業はどれくらい取れる?
続いて育児休業の取得実績について伺ってみました。
「育児休業はどれくらい取得しましたか?」という質問に対し、回答が最も多かったのは「12ヶ月(1年)程度」で26%。次いで「4~5ヶ月程度(21%)」「育休は取得しなかった(21%)」という回答が多く寄せられました。
注目すべきは「育休を取得しなかった」という方が2割以上いること、また産後1ヶ月から、法律上取得できる育休期間の半分にあたる6ヶ月未満で育休を切り上げた方が3割に及ぶことでしょう。
昨今、待機児童問題の深刻化から、保育園入園のために生まれて初めて迎える4月で産休を切り上げる方が多いという事情もありますが、人員不足などから早めに休業を切り上げ、職場復帰するケースが多い現状も伺えます。
産休・育休の取得には躊躇する?
実際に産休・育休を取得された経験のある方に、取得の際に躊躇をしたか否かを伺ったところ、「躊躇した」と回答されたのは全体の32%。68%の方は「躊躇しなかった」と回答されました。
「躊躇した」と回答された方にその理由を伺ってみたところ、やはり安心して引き継げる人材の不足が多く挙げられました。
- ◆産休・育休取得を躊躇した理由
- ・ほとんどがパート職員の園で、自分が休んでいる間は新人の先生が担任として頑張らなくてはいけないため。(30~34歳・保育士/正規職員・女性)
- ・人手が足りなく、引き継ぐ人材がすぐに見つからなかったから。(35~39歳・保育士/パート・アルバイト・女性)
また実際の産休・育休の取りやすさについては回答者の61%が「取りやすかった」と回答する結果となりました。
取りにくかった理由については「十分な期間の休業ができない環境だったから」「取得実績がなかったため手続きの方法などが教えてもらえなかった」というご意見が多く見受けられました。
産休・育休を取りやすくするために…
「今仮に子どもができたと仮定したら、あなたは今の職場で産休・育休を取得できると思いますか?」という質問に対し、「取得できると思う」と回答されたのは61%。一方で「取得できると思わない」というご意見も23%に上りました。
取得ができないと思う理由には、以下のようなご意見がありました。
- ・過去に妊娠した先輩は辞めさせられたので。(20~24歳・保育士/正規職員・女性)
- ・人手不足だから(25~29歳・保育士/正規職員・男性)
最後に、今後の職場の改善点について「職場にどのような環境、配慮があれば、より産休・育休が取得しやすくなると思いますか?」という質問をしてみました。
最も多く望まれた改善点は「休業中の人の不足分を補える十分な人材の確保」で、回答者の実に77%が必要性を感じていることがわかりました。続いて多かったのが「園長や上司の理解(71%)」、「産休・育休制度について職場でよく認知されること(58%)」。
やはり慢性的な人員不足の解消が、保育士さんの働きやすさへの鍵であることが伺えます。
同時に産休・育休は労働者が請求してはじめて権利の行使ができるもの。利用の規定や申請手順などを総務・人事担当者がきちんと把握し、わかりやすく労働者に提示することも重要と言えるでしょう。
編集者より
今回の調査結果は、職場帰し活躍されている保育士さんのご意見に基づくものであるため、実際の現場の状況と少々異なる部分もあるかとは思いますが、「産休・育休が取りにくい」という保育士全体のイメージに対して、実際には取得ができているケースも多くあることが伺えました。
ただし、人材不足などから十分な期間の休業が取りづらい、将来的に取得することを考えた時に不安な点がある、など改善の余地があるのも事実。
職員体制の見直しなどによって、保育士さんが安心して産休・育休を取得し、長く働ける環境を作ることは、昨今の保育士不足解消のためにも重要なのではないでしょうか。
・実施期間:2017年5月27日~6月4日
・実施対象:
保育士/正規職員(70%)・保育士/パート・アルバイト(21%)・保育士資格取得見込/インターン・学生(2%)・幼稚園教諭/正規職員(2%)・幼稚園教諭/パート・アルバイト(2%)・その他の保育関連職(5%)
・回答者数:66人(平均年齢:34歳)
・男女割合:女性/98%・男性/2%
※ご協力いただきました皆さま、貴重なご意見をありがとうございました!