「敏感期」。
生き物が成長の過程で「ある特定の機能」を成長させるため、特別に際立った感受性を持つ時期のことを指す生物学の用語です。
敏感期の働きによって生物は本能的にさまざまな刺激に触れ、環境から学習していきます。生まれたばかりの生物がすぐにえさを探しに動けるのも、光や音、匂い、運動に対する敏感期があるからです。
モンテッソーリ・メソッドを提唱したモンテッソーリは、この敏感期が人間にも備わっているものと定義しました。
幼児期の子どもにも一生に一度、ある物事に対して特別に強い感受性を発揮する時期が訪れるとしたのです。
主な敏感期 | |
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秩序感の敏感期 | 順番や習慣、場所、所有物などに非常にこだわります。 決まっているパターンでないと拒否感を示したり、所有物が入れ替わると嫌がったりするようになります。 |
感覚の敏感期 | 五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)について特別に敏感な感受性が生まれます。 肌触りを楽しんだり食べ物の好き嫌いがでてきたりします。 |
運動の敏感期 | 自分の思い通りに身体を動かす訓練をする時期です。 100%の力を出し切るまで身体を動かせるのは、人生においてこの運動の敏感期にある間のみです。 |
特定のことにこだわったり執着したり、大人の目からすると不可解に見えるその行動も、実は子どもの敏感期によるものかもしれません。
今回はそんな敏感期を迎えているかもしれない子どもたちに、大人がどのようなサポートをするべきかを堀田先生にお聞きしました!
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*シリーズ「人生100年時代」の保育のカタチは、モンテッソーリ教師の堀田はるな先生から、日々の業務や子どもとの接し方に活かせるモンテッソーリ・メソッドの考え方をお聞きする取材連載です。
どうして? 同じことを繰り返しているのは……
特に2歳児の子の敏感期の場合、何かひとつのことにハマるブームが起きると、飽きるまでそれをやり続けている傾向があります。
そういう性質があることを保育士さんやお母さんがきちんとわかってあげていると、子どもが今一番やりたい活動を邪魔しないようにできるのかな、と思います。
私が勤める「こどもの家」では、机の上でやる活動もあれば、絨毯の上で床にものを置いて行う活動もあります。丸めた絨毯はいつも部屋の隅に置いてあって、子どもたちが活動で使用する際に自分で出すルーティンになっています。
その中で、とある2歳児の女の子が絨毯を上手に巻けなかったんです。そこで少し手伝ってあげて、きちんと片づけできるようにしました。すると彼女は一回しまったものをまた出して、広げて、また巻き直して……を繰り返し始めたんです。
ひとりで綺麗に巻けたときにやっと「見て!」と私を呼びに来ました。これも、敏感期によるものだったのかなと思いますね。
敏感期にある子どもの行動は一見すると不可解で、「なにやってるの?」「早くお片づけしなさい」などと叱ってしまいがちです。
ですが子どもはたくさん失敗を経験して、そこで初めてできないことややり方の工夫を学んでいきます。
大人が先回りしてあれこれ指示を出しているうちは、子どもは自分で考えて行動する、ということができません。気になってもみなまで言わず、見守ってあげるといいですね。
2歳児に多い敏感期の傾向
敏感期は大なり小なり発達の過程であるもので、必ず決まった出方をするわけではありません。子どもによっても個人差があります。
日々の活動の中から何に執着しているか、どんなことにこだわりがあるのかを見て、「もしかしてこれも敏感期かも?」と察する視点を持てるといいですね。
年齢で絶対に区切れるものでもありませんが、2歳児の敏感期としては、「秩序感」「感覚」が特に強く出る傾向があるようです。
温度や触感に対して敏感になる「感覚の敏感期」では、子どもたちは砂や泥など、大人が触らせたくないものを触りたがることが多くあります。
大人はついそれを取り上げたり、やめなさいと叱ってしまいがちですが、できるだけ触っているものを止めないで上げるのがいいですね。
「今この子が何を感じてこれをやっているのか?」を考えてあげることで、子どもの感覚が育っていきます。
触りたい時期だということを大人が理解してあげて、家での過ごし方や扱うおもちゃをそれにあったものにしていくことで、子どもの成長に役立つんです。
子どもは環境から学ぶので 環境を整えてあげるのが大切ですね。
時には、触ったらケガをしてしまうものに触ろうとしてしまうこともあります。その時は「危ないから触っちゃダメ」と抽象的な言い方は避けましょう。子どもからすれば、「なぜ危ないのか」「どう危ないのか」がわからないからです。
「触るとあなたの手が切れるよ、痛いよ」と具体的に教えてあげるのがいいですね。
ハサミやナイフなど一見危険に見えるものも、子どもサイズのものを用意して安全な使い方を覚えるように促すことで、なんでもかんでも「ダメ」と言わずに済む場合もあります。一人で安全に使えるようになるまでは「ママと一緒の時だけね」と子どもと合意して使わせるなど、大人が工夫すれば良い場合もあります。
敏感期の子どもへ、どう接するべき?
敏感期の子どもと接する上で大切なのは、まず肯定することです。
とくに2歳児はこれから世の中を学んでいく年齢。口で説明するよりも見たり触ったり、五感で感じて学んでいくので、ケガにつながるような危険なことでなければ、失敗するとわかっていてもやらせてあげた方が学びは早いですね。
2~3歳の子どもだとある程度は言葉でコミュニケーションがとれるので、大人は言えばわかると思って口を出しがちですが、実は音として聞こえているだけですべてを理解できているわけではないんですね。ですから大人があれこれ説明することは、かえって子どもの集中の邪魔になることもあるんです。
また、子どもが何かできたときに、「よかったね、できたね」って共感してあげるのがいいですね。できたことをいっしょに喜んであげるのが大切です。
よく言ってしまいがちなのが「上手だね、えらいね」といった褒め言葉ですが、これは子どもを評価する言葉です。それよりは、子ども自身の「できた!」という気持ちに寄り添った共感の言葉の方が良いと思います。
子どもの活動を「お母さんなど大人を喜ばせること」を目的にするのは、その子のためになりません。全てを否定するつもりはありませんが、お母さんの注目がなくなったらやらなくなってしまうようであれば、自主性を伸ばすことには繋がらないからです。
その子にとってプラスになっているから励ましの声掛けをするのです。本人ができるようになったことに注目するようにしましょう。
3~6歳児の敏感期
3歳以降の敏感期は、2歳までとはまた特徴が異なります。
2歳児はひたすら触ったり感じたりして「周りの環境の情報を自分の中にインプットする」ことをしますが、3歳からは得た学びを整理していく段階になります。「砂はざらざら」「金属は冷たい」など、感じたものを概念として獲得するのです。概念を獲得するに従い、それまでほどには色々なものに触らなくなったり、執着しなくなったりします。
概念を獲得することは、論理的思考の始まりでもあります。より抽象的なものに興味を移したり、数を数えたり、ものの名前を覚えたりするようになります。
色々なことに興味を持って「何で○○なの?」「どうして○○なの?」という大人を質問攻めにするようにもなります。
そんな子どもの質問に対して、「子どもに質問されたら完璧に答えなくては!」と身がまえる必要はありません。たとえば「どうして空は青いの?」と聞く子どもは完全な答えを求めているわけではなく、ただ単に「不思議だと感じている」とことを伝えたいだけの場合も多くあります。そんな時には「なんでだろうね。不思議だね」と共感してあげるだけでもいいのです。
本当に知りたいと思えば、子どもは何度も尋ねてくるので、その時には子どもが納得できる答えを探せるように協力してあげるといいですね。動物や虫、草花のことであれば一緒に図鑑で調べてみるもよし、実際に公園に探しに行くのもいいですよね。大人が答えを教えてあげるのではなく、子どもが自分で答えを見つけるように協力できれば一番良いことだと思います。
子ども同士は衝突からコミュニケーションを学ぶ
2歳児まではひとり遊びをすることが多い子どもも、3歳からは他人とのコミュニケーションを学べるようになります。友達付き合いが発生するので、対人関係の揉め事も増える時期です。
子ども同士の喧嘩は、お母さんも保育士の先生もどう対応するべきか悩むポイントですよね。子どもたちは相手の気持ちを想像したり、慮ったりする経験をまだ十分積んでいないのですから、時には衝突もあるものです。そういった揉め事を避けようとしたり、無理に引き離しても仕方ありません。
3〜4歳児であれば、諍いの当人の話をよく聞き、気持ちに寄り添うことが大切です。まだ相手の気持ちを十分に理解できない年齢ですから、うまく中立ちしてあげることが必要かもしれません。年長児にもなれば、当人同士の話し合いも有効になってくるでしょう。一番良くないのは、大人が一方的に悪者を決めつけるような対応をしたり、当人たちの気持ちをよそに勝手に裁いたりすることだと思います。大人はあくまで部外者ですから、子どもたち自身でどうしたら良いのかを判断できるようになるための手助けをしたいものです。
編集者より
大人にとってはなかなか理解できない子どもの行動も、実は成長する上で必要なことなのかもしれません。
頭ごなしに「変なことをしている」「この子は大丈夫だろうか」と考える前に、もしかしたらその子が「敏感期を迎えているかも?」という意識を向けられるようになるといいですね。
子どもの内面に生じ、また個人差もある敏感期は、傍から見てはっきりと断じられるものではありません。
しかし、「子どもには敏感期というものを迎えるタイミングがある」という知識があるかどうかで、子どもへの理解や対応は大きく変わることでしょう。
子どもたちがより豊かに育っていけるよう、日々の保育でも子どもがのびのびと自主性を養えるように過ごさせてあげられたらよいですね。