世界のなかでも自然災害の多い国、日本。
2013年から2013年の10年間に起こった、マグニチュード6以上の地震の回数は326回。これはじつに全世界の18.5%を占めています。また、活火山の数も110と全世界の7.1%を占め、これまでに地震やそれに伴う津波、火災、火山活動などで多くの犠牲者が出ています。(データ:内閣府『平成26年版防災白書』より)
また、近年は台風や集中豪雨などによる水害や、不審者の侵入などの人為的災害も多く発生し、さらなる防災対策の強化が必要とされています。
そんな「災害大国」日本においては、子ども達の命を守るために「もしも」に備える避難訓練が欠かせません。
子ども達の命を守る使命を担う保育施設における避難訓練について、その重要性や実践方法を「もしもの備え編」と「実践編」とに分けて紹介していく今回。「準備編」では保育園に必要な災害時への備えについてお伝えします。
保育者には「子どもの命を守る」使命がある
保育を必要とする子ども達が日中の多くを過ごす保育園。
保育士さんには、災害が発生した場合に子ども達を安全に避難させ、その大切な命を守り抜くという重要な使命が与えられています。
自然災害が多い日本においては、いつ大きな災害が発生するかわかりません。だからこそ、「もしも」を想定した避難訓練で、災害時に落ち着いて行動できるようにすることが重要なのです。
3・11、避難訓練で守られた幼い命
2011年3月11日の東日本大震災では、予想もしなかった大規模な地震と巨大な津波に、多くの尊い命が失われてしまいました。
あのとき、岩手・福島・宮城の3県で被災した保育施設の数は78施設。しかし、そのなかで乳幼児が亡くなった園は、たった1園のみでした。
多くの保育施設では、毎月行っている避難訓練のとおり、迅速かつ冷静に避難行動を取ったことで、子ども達の命を守ることができたといいます。
災害が起こったとき、人は大きな不安を覚え、ときにパニックを起こしてしまいます。
さまざまな災害を想定して避難訓練を繰り返すことは、災害時に的確な避難行動を取ることに大変役立つことだと言えるでしょう。
避難訓練のもつ5つの役割とは
避難訓練には主に次の5つの役割があります。
特定の災害を想定し、実際に避難行動を取ることで子ども達は、「もしも」の際にどのように行動をすればよいのかを、実体験に基づいて理解することができるでしょう。
また、避難訓練が終わったあとに課題や問題点を見直すことで、園全体の防災力を高めることにもつながります。
保護者との連携も不可欠
東日本大震災では、保護者へ受け渡したのちに亡くなったり行方不明になったりした子どもが111名もいたとされています。
保育園での防災対策を十分に行い、子ども達の命を守りきれたとしても、保護者の防災への意識や対策が不十分な場合には、無事に受け渡したあとに被害にあってしまう可能性もあります。
避難訓練を園だけで行うのではなく、保護者と連携して実施すること、そして保護者にも「子どもの命を守る当事者」としての意識を持って積極的に参加してもらうことが必要です。
子ども達の命を守るためには、必ずしも「引き渡したら終わり」ではないということを、保育士さんもパパ・ママも、避難訓練のときから意識しておかなければならないホィ。
【ステップ1】まずは園の安全点検を実施しよう
では、ここからは実際に避難訓練を行う手順を紹介していきましょう。
まず、避難訓練実施の前に、保育園の施設内の安全点検を実施する必要があるでしょう。
園舎・ガラス窓・園庭
園舎内、とくに大きなケガのもととなる大型家具やガラス窓、園庭のブロック塀などについては、定期的に安全性のチェックを行うことが不可欠です。
避難経路
園内の避難経路が備品などでふさがれていた場合には、逃げ遅れが発生する可能性もあります。
訓練の際にはかならず避難経路を確認し、必要があれば備品を他の場所に移動するなど、導線の確保を行うようにしましょう。
コンセント
災害時、コンセントが火元となり火災が発生してしまうこともあります。避難訓練の際にはすべてのコンセントを確認し、火災の危険性がないかチェックしましょう。
調理室
自園調理の場合、もっとも火災のリスクが高いのが調理室でしょう。子ども達を守るためにも、火災が発生しないよう定期的に安全確認を行うことが重要です。
子ども達がふだん入ることがない調理室もしっかりとチェックしておきましょう。
消火設備
消化器・防火扉やシャッターは、定期的な点検が欠かせません。毎月の避難訓練の際には、必ず稼働状況や使用期限など、必要項目をチェックしましょう。
【ステップ2】防災グッズを点検しよう
自然災害はいつ発生するかわかりません。また、万一の際には持ち出す荷物を準備する時間の猶予さえないことも考えられます。
「もしも」のためにも非常時に持ち出すものをまとめておくとともに、園を避難場所として待機するケースも考えて、災害用の備蓄品を確認しておくとよいでしょう。
非常用持ち出し品リスト
非常時に持ち出す品は、リュックなどにまとめ、すぐに持ち出せるようにしておきましょう。また、避難のときにスムーズに持ち出せるよう、わかりやすく、取り出しやすい場所に保管するようにします。
・児童名簿(緊急連絡先が記載されたもの)
・行政等の連絡先一覧
・避難用地図(避難経路を記しておくとよい)
・筆記用具
・応急手当のための救急用品
・懐中電灯(ヘッドランプがあると便利)
・予備の電池
・ラジオ
・無線機
・拡声器
・ホイッスル
・旗など目印になるもの
・ガムテープ
・油性マジック/筆記用具
・現金
・スマートフォンや充電器
・防災頭巾/ヘルメット
・抱っこ紐
・避難車(ベビーカー)
・軍手
・ロープ
・ブルーシート
・防寒具(毛布・ブランケットなど)
・着替え
・紙オムツ
・タオル
・非常食/ミルク
・飲料水
・哺乳瓶
・おしりふき
・ティッシュペーパー
・ビニール袋
・マスク
災害用備蓄品リスト
災害用備蓄品とは、一般的に救助活動が本格的にスタートするまでの3日間を乗り切るために必要なもののこと。
園舎が被災するなどの場合を検討して、屋内・屋外に保管場所を分けて備蓄しておくとよいでしょう。
保育に必要な備蓄品
・飲料水(おとな3リットル/1日)
・食料(レトルトご飯・パウチのおかず・缶詰・カンパンなど)
・粉ミルク
・氷砂糖/黒砂糖
・お菓子類
・ガーゼ/三角布/包帯
・絆創膏
・毛抜き(ガラス片が刺さった際などに活用)
・消毒液
・ビニール手袋/ゴム手袋
・マッチ/ライターなど
・カセットコンロ
・ガスボンベ
・なべ
・やかん
・紙皿
・紙コップ
・はし/スプーン/フォーク
・ナイフ
・トイレットペーパー
・おまる
・簡易トイレ
・石鹸
・ランタン
・ポリタンク/バケツ
・工具
・簡易ストーブ
・石油
・テント
定期的に倉庫のなかを見直して、いつ災害が発生しても対応できるようにしておきたいホィね!
【ステップ3】地域の安全対策について話し合おう
園内の安全な場所に避難したのち、場合によって地域の広域避難場所(二次避難場所)などに、避難場所を移す必要があるケースも考えられます。
そのため、園内の防災対策だけでなく、周辺地域の情報についてもしっかり収集しておく必要があるでしょう。
ハザードマップをもとに地域の安全をチェックする
国土地理院では、地域の防災に関する情報をまとめた「ハザードマップ」を作成・提供しています。
国土交通省の資料によれば、「ハザードマップ」とは以下のように定義されています。
「ハザードマップ」とは、一般的に「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」とされています。防災マップ、被害予測図、被害想定図、アボイド(回避)マップ、リスクマップなどと呼ばれているものもあります。
(引用)国土交通省国土地理院『ハザードマップ』
各自治体では、このハザードマップを窓口やホームページ上で公開しています。
保育園の位置する地盤の強さや、地震等による被害予想、水害の危険性などを知るためにも、入手して周辺の環境について調べてみましょう。
また、実際に避難所までの経路を歩いてみて、災害時に危険がある箇所をピックアップし、地図に書き込んでみるのもよいでしょう。
災害時に連絡をとる関連機関や給水拠点を確認する
災害発生時には、消防署や警察署、自治体の保育課など、関連機関への連絡が必要になることも。
あらかじめ、接点のある行政や企業等関係各所の連絡先を調べ、リストアップしておくとよいでしょう。
また、断水した場合に備え、付近の給水拠点についても確認し、地図などに示しておくようにします。
近隣の災害時給水拠点が不明な場合には、保育園のある自治体に確認してみるといいホィね!
避難場所と経路を確認する
災害の規模が予想を大きく上回った場合、想定される避難所では安全の確保ができず、別の避難所に避難が必要となる可能性もあります。
最寄りの指定避難所はもちろん、その周辺の避難所についても、場所や避難経路を確認しておくと安心です。
【ステップ4】保護者との連絡経路を確認しよう
急な災害時には、保護者との連絡がスムーズにつかないことも考えられます。
事前に一斉メール配信システムや携帯端末から閲覧できるホームページ・掲示板など、災害時の連絡方法を確保し、保護者に伝えておきましょう。
また、災害時用の連絡手段を確保したとしても、いざというときにうまく稼働しないこともあります。
避難訓練にあわせて、テスト配信を行ったり、体験期間を設けて掲示板に安否等の情報を書き込んでもらったり……実際に連絡手段を使用してもらう機会を設けるとよいでしょう。
非常時に電話は使えないものと考える
災害時には、被災地への通話が集中するために、電話が通じにくくなることが考えられます。
基本的に「非常時には電話は使えないもの」と考え、それに備えて訓練することを心がけましょう。
また、どうしても電話でしか連絡が取れないという場合には、公衆電話からの電話が比較的つながりやすいこともあります。
園周辺の公衆電話の位置も、防災マップに記しておくとよいでしょう。
災害用伝言ダイヤル(171)やSNSも活用して
災害用伝言ダイヤル(171)は災害の発生により、被災地への通信が増加し、電話がつながりにくい状況になった場合に提供が開始される声の伝言板です。
園からの連絡が通じない場合などに備え、保護者に災害時の登録をお願いするとともに、保育士さんも、メッセージの確認方法をチェックしておきましょう。
<登録する>171ー1-市外局番からの固定電話番号
<確認する>171ー2-市外局番からの固定電話番号
また、園のSNSなどで情報を発信するなど、複数の方法で保護者と情報のやりとりができるようにしておくと、「もしも」のときに、保護者とまったく連絡がつかない、あるいは保護者に園の情報がまったく伝わらないというリスクを軽減できます。
通常保育のなかでの防災教育も大切!
防災教育は、防災訓練のみで行うものではありません。日ごろから防災への意識を高めていることで、「自分の命は自分で守るもの」という防災への意識付けができます。
このことは、保育園で災害が起こった場合のみでなく、園以外で災害にあってしまった場合にも、子ども達の命を守る、ひとつの力となってくれることでしょう。
8~9月の防災の日・週間は災害について考えるよい機会
自然災害の多い日本においては、毎年9月1日を「防災の日」、8月30日~9月5日を「防災週間」と定め、災害に対する理解を深め、防災に対する意識を高めることを目指しています。
もともと防災の日は、1923年9月1日に発生し、多くの犠牲者を出した関東大震災に由来して制定されたもの。この「防災週間」の期間は、防災について考えるよい機会となるでしょう。
編集者より
1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、2014年の熊本地震……。日本においては自然災害によって、これまで多くの尊い命が失われてきました。
犠牲者のなかには、希望ある未来があったはずの子ども達も含まれています。我が子を失った保護者や、長い間子どもの成長を見守ってきた保育士さんなど、関係者にとっては、どんなにつらく心が痛む出来事だったか……そう思うと胸が締め付けられます。
保育園における避難訓練は、単なる慣例的なイベントではなく、そんな痛ましい出来事を繰り返さないため、大切な子ども達の命を守りぬくためにあるものです。
今回お伝えした内容が万一の災害時、子ども達や保育士さん達の命を守ることに、少しでも貢献できることを願っています。
参考文献・サイト
- 天野珠路 編・著(2017)『写真で紹介 園の避難訓練ガイド』かもがわ出版
- 経済産業省『想定外から子どもを守る 保育施設のための防災ハンドブック』(2019/4/15)
- 保育士くらぶ『保育園で行う【避難訓練】の手引き!地震や火事、子どもの防災意識を高めるには?』(2019/4/15)
- 内閣府『平成26年版 防災白書』(2019/4/15)
- 国土交通省国土地理院『ハザードマップ』(2019/4/15)
- 首相官邸『いつ、どこに、どうやって避難したらいいの?』(2019/4/15)