2019年10月9日(水)、ユニファ株式会社主催「少子化・人口減時代に考える、変化する保育のあり方とこれから選ばれる・選ぶべき保育園とは? 『スマート保育環境整備』に向けた有識者による講演会」が開催されました(於:フクラシア丸の内オアゾ)。
保育・幼児教育の現場にも近い専門家や企業の開発者が集った貴重な講演会の様子をレポートする今回。
前編の記事では、内閣府が進めてきた少子化対策や子育て支援で見落とされてきた「保育の質」についての議論をお伝えしました。
後編では、引き続き無藤隆先生・大豆生田啓友先生、そしてスマート機器の開発企業による実践のお話をもとに、「ヒト」と「モノ」が協働し、企業や地域を巻き込んだ「保育」のあり方についてお伝えします。
「写真」は保育記録だけでなく保護者とのコミュニケーションツールに
無藤先生・大豆生田先生は、これまでの少子化対策は「子ども中心」の視点が欠け、「保育の質」が置き去りになっていることに警鐘を鳴らしました。
そこで、「保育の質」を高めるために、現場の保育士さんがすぐにできる行動として「記録とふり返り」を提案します。
写真からは「物語」と「対話」が生まれる
大豆生田啓友先生(以下、大豆生田):たとえば記録の手段として「写真」を用いたドキュメンテーションを実施する、という方法があります。
保育士さんに向けてドキュメンテーションのワークショップや学生の指導をやったりする中でも分かるのですが、一枚の子どもの写真から物語が語れるようになってくるのです。
保育中の写真を見ることで、子ども達の気もちや行動の変化が分かり「学びの見える化」になります。
また日々の写真を掲示する園もあるでしょう。
これは保護者との対話が生まれるきっかけになります。
そして、日々の成長の物語として伝わり、保育の学びの側面を伝えることもできます。
写真は「ただ子どもを預けているだけの場所」から家庭も巻き込んで「園はいっしょに子どもを育てる場」だと感じてもらえる可能性を持っているのです。
保護者への発信物に、連絡帳の代わりに、そして監査の資料に。
これまで全て手描きで行ってきたものを写真とデジタルの力を用いて、記録の一元化をする。
これは保育士さん達の省力化にもつながります。
自動撮影やアプリで「保育士さんの学び」も応援したい
土岐泰之さん(以下、土岐):ユニファ株式会社では、保育の現場で役立つサービス「ルクミー」を開発しています。
たとえば、エプロンにつけられる自動撮影機能付き小型カメラがあります。保育士さんが写真撮影に気を取られずに子どもと向き合うことができ、記録の整理の時間短縮にもなります。
複数の写真を振り返ると「この子はずっとトンボの本を読んでいるな」といった興味関心に気づける、AI技術によって誰と誰が仲が良いかまでわかるところに来ているのです。
それにより、保育のポイントがわかり、保育士さんにとっての学びにつながる可能性も秘めています。
「モノ」の力を借りることで子どもと向き合う時間が増える
自動撮影やデジタルでの記録管理、そしてAI技術。
日本全体が深刻な人材不足に陥っている今、最新技術の力を借りながら仕事を「省力化」していくことは保育の現場でも求められてきています。
ユニファ株式会社では、システムの力を借りて保育士がもっと子どもと向き合える時間を増やしたい、というビジョンのもと「スマート保育園」のイメージを紹介していました。
保育士の幸せは「楽にできること」と「楽しい」と思えること
無藤隆先生(以下無藤):保育人材の不足はただ「給料をあげればよい」「外国人を起用して頭数を増やせばよい」というだけでは根本的な解決にはなりません。
ここで考えたいのは保育士さんの幸せについて。
その上で、テクノロジーををうまく保育に取り入れていくことが重要です。
大変な作業が便利な技術を使い、「楽になった」と感じられること。
そして保育士さんが子どもと一緒に過ごせる時間が増えたり、保育の意義を見出せることによって保育の仕事本来の「楽しさ」に気づけること。
保育士さん達がそのような幸せを感じられることで、人材のレベルでも保育の質がどんどんと向上するのではないでしょうか。
子ども達はヒトとの関わりだけで育つのではありません。
つみきや砂場などの「モノ」との関わりの中で、学び、成長していきます。
だからこそ、「ヒト」と「モノ」が一体となってよりよい保育を目指していくべきです。
「ヒト」にしかできないことを極めて、みんなが幸せになれる社会へ
ICT(Information and Communication Technology)とはインターネットがつなぐコミュニケーションのこと。
IoT(Internet of Things)とはモノがインターネットとつながる技術のことを指します。
「スマート保育園」を提唱する土岐さんは、スマート機器の開発に携わる中で、「ICTやIoTが保育士さんの目となり手となり、頼れる秘書のような存在になる」と言います。
これからの子どもを育む社会のために、保育現場だけでなく企業も一丸となって取り組んでいく重要性が語られました。
ICT・IoTだからこそできる安心・安全な保育環境づくり
土岐:保育士さん達の「楽しい!」が実現する一歩手前の段階で、「安心・安全」な環境が必要です。
たとえば、重大事故が起こりやすい午睡の場面。
子ども達が寝ている間も保育士さんは一瞬たりとも気が抜けず、5分おきの確認やクラス全員分のチェック表を手書きで書かなければならない大きな負担がありました。
弊社が開発した「ルクミー午睡チェック」※は体の向きを計測し、自動で記録ができます。
今後、さらにバイタルデータを蓄積・分析し、他の機器などと組み合わせることで、これまでベテランの先生しか気づけなかった「子どものちょっとした体調の変化」も予測し気づくこともできるようになると考えています。
機械を用いることでヒトとのダブルチェックが可能になります。
これにより安心・安全が確保され、保護者にとっても保育士さんにとっても不安が軽減できるのではないでしょうか。
※医療機器届出番号: 13B1X10140017300
社会全体で子どもの安全を守る「ベビーテック」を
永田哲也さん:私たちは様々な企業を巻き込んで、育児・保育現場にICT・IoTを活用する「ベビーテック」のムーブメントを作ろうと活動してきました。
「ベビーテック」とはあかちゃん(Baby)とテクノロジー(Tech)をかけ合わせた言葉で、2016年ころからアメリカで生まれた言葉です。
前回の内閣府主催「子育て応援コンソーシアム」においても、重要テーマの一つとして取り上げられ、日本でも少しずつ注目されるようになってきました。
技術の力によって、具体的には保育施設での園児や従業員管理や子どもの健康状態の管理、作業の効率化などにより子どもにとって良質な環境を提供できるようになります。
そのために、優れたスマート機器商品や企業を表彰する「BabyTech Award Japan 」という機会も設けています。
そして、産業界をまきこみつつ、社会全体で「ベビーテック」のムーブメントを作ることを使命に感じています。
目指すべきは心と時間にゆとりをもった「スマート保育園」
無藤:個々の保育士の能力に頼りがちな保育の現場ですが、クラス、隣のクラス、主任や園長などを巻き込んで組織として全体の質を上げていくことが重要です。
スマートフォンを使いこなしている教え子達がいざ現場に出てみると、「連絡帳や指導計画など全てが手描き」という現実に戸惑う。
若い世代や現場の感覚を尊重し、「保育がよりよくなるか」という視点をもって「試す」ことが大切です。
モノや技術、様々な声を取り入れて、統合していく、ハイブリッド化すること。
ただモノを使うだけでない、心と時間にゆとりをもった上でなされる「スマート保育園」を作っていくことが望まれます。
豊かな対話から巻き込み型のムーブメントを起こそう
大豆生田:写真などを用いた情報共有は、保育者同士・保育者と保護者の「対話」を豊かにしてくれます。
IoTの活用は、人ができることを人がより注力できるようになることです。
つまり、人と人のつながりを生み、育んでくれる助けになります。
保育園は、地域の拠点・まちづくりの拠点にもなる可能性を大いにもっています。
「乳幼児期はこんなに大事である」「保育や育児は素晴らしい営みなんだ」ということを伝えながら、家庭や企業、地域を巻き込んで、ムーブメントを作っていきましょう。
講演会を終えて……
保育現場からも多くの方が参加した今回の講演会。
会の終盤にはスマート機器を導入している保育の現場から、「ペーパーレスに取り組んで本当に楽になった」という感謝の声があがり、他の参加者からも共感の声があがりました。
一方で「ベテラン職員にとってはスマート機器のハードルが高く、涙もあった」というリアルな声も聞かれました。
時代の変化とともに、「ヒト」も「モノ」も変化し続けなければなりません。
「子どものために」という不変の思いを共通に、モノ(を作る企業)とヒト(現場の保育士・家族)、そして地域や国が真摯に向き合い、協力を続けたら、子どもにとっても保育者にとってもよい未来につながっていける……そんな可能性が見えた講演会でした。
保育の現場で働くみなさんにとって、日々の保育の見直しになり、「より楽に、より楽しく」働くヒントになれば幸いです。
主催会社、ユニファ株式会社の情報はこちらから
https://unifa-e.com/
ユニファが企画・運営を行う「ルクミー」の情報はこちらから
https://lookmee.jp/