取材・インタビュー

「一人ひとりが、かけがえのない存在」 ~齋藤紘良理事長が語る「職員を大切に思うということ」~

渋谷と代官山の間、まさに都会の真ん中にある、渋谷東しぜんの国こども園 small alley は、2018年10月に開園した保育所型認定こども園。

その運営主体である社会福祉法人 東香会の理事長を務め、渋谷東しぜんの国こども園の園長としても活躍するのが、齋藤 紘良(さいとう こうりょう)さんです。

職員一人ひとりの「得意」や「好き」を活かせるような職場環境を整えているという齋藤理事長に、その思いや、環境づくりにおける工夫について、お話をうかがいました。

子どもを中心にヒト・モノ・コトが交わるこども園~渋谷東しぜんの国こども園 small alley 訪問レポート~渋谷東しぜんの国こども園 small alley(スモール・アレー) は、2018年10月に開園したばかりの保育所型認定こども園。その園...
「完璧じゃなくていい。ひとりの人間であっていい」 ~渋谷東しぜんの国こども園の保育士さんに聞く、いきいきと働くための原動力~渋谷の再開発地区、新旧が融合する街の一角に、2018年10月オープンした「渋谷東しぜんの国こども園 small alley(スモール・ア...
    *シリーズ「保育ノゲンバ」は、保育施設や保育士・園長先生などにフォーカスし、保育の現場(ゲンバ)をお伝えするリポート取材連載です。

音楽家に高校の非常勤講師……マルチに活躍する理事長

――齋藤さんが、東香会の理事長に就任されるまでの経緯を教えていただけますか?

もともと、東香会の理事長を務めていたのは僕の父でした。僕が理事長に就任したのは、2018年の6月のこと。それまでは、別の運営主体の幼稚園の主事や事務長の経験を経て、町田にあるしぜんの国保育園の副園長、園長を務めていました。

現在は、理事長と渋谷東しぜんの国こども園の園長とを兼任しています。また、週に1度、町田にある高校で非常勤講師も務めています。

――齋藤さんは、音楽家としても活躍されているとお聞きしました

音楽の専門学校で学んできた経験から、映像番組への楽曲提供など、作曲活動も行っています。また、4人組の音楽バンドCOINN(コイン)のメンバーとしての活動もしています。

▲理事長・園長としての活動はもちろん、講演会やワークショップの実施、イベント出演など多忙な日々を送る齋藤理事長

職員の「積み重ねてきたこと」を大切にしたい

――そんなマルチに活躍されている齋藤さんですが、理事長・園長として園を運営するうえで、大切にしていることはなんでしょうか

職員が、今まで積み重ねてきたことを捨てるのではなく「そのまま活かせる」ような職場環境づくりを心がけていますね。

保育士さんならば、保育士になる前に学んできたことや、保育士になってからも趣味として続けてきたことなどを、日々の子ども達との生活に役立ててもらうんです。

――「しぜんの国」では、すべての職員が、美術部・環境部・身体部などの「部活」に所属するとお聞きしましたが、それも、得意なことを活かして働ける仕組みのひとつになっているのですね

渋谷東しぜんの国こども園には、さまざまな特技を持った職員がいます。たとえば、楽器が弾ける保育士、絵が上手なキッチンの職員、歌うことが得意なドイツからのインターン生、ミュージシャンとしても活躍する用務職員……。

職員はそれぞれ、得意なことを活かして子ども達とつながりを持ちつつ、仕事をしています。

――(渋谷東しぜんの国こども園で働く保育士さん2名に)実際に働いていて、そのような自分の「好きなこと」「得意なこと」を活かせる環境にあるというのは、どうですか?

野沢さん
野沢さん
私は、前職でフラワーアレンジメントの仕事をしていたのですが、そのノウハウを、園内の装飾づくりに活かしています。

保育士として転職する際に、「いままでの自分を全部“ナシ”にしてしまうのは、なんだかもったいないな」「なんらかの形で、これまでの経験を活かせないだろうか……」という気持ちがあったんです。

その気持ちを尊重してくれて、今、好きなこと・得意なことを活かしながら仕事ができるのは、とても幸せなことだと思いますね。

ドライフラワー▲開園の際に贈られた花で、野沢さんが作ったというドライフラワーの装飾。園内のいたるところで、子ども達の生活に彩りを与えている
篠原さん
篠原さん
一人の職員が子ども達に提供できるのは、ある特定の分野の知識や体験かもしれません。

しかし、職員それぞれに「好きなこと」や「得意なこと」は異なりますから、多くの職員が集まれば、より多様性に満ちた保育が展開できますよね。そんなところに醍醐味を感じています。

平準化されているよりも、「その人だからこそ子ども達に提供できる“なにか”」があったほうがおもしろい!」と思っています。

「単純な新人」なんていない

――皆さん、自分の「得意」や「好き」を活かして、いきいきと毎日を過ごされているようですね

保育士になって1年目の新人でも、社会人としての経験がない新卒でも、ほかのことにおいては、もしかしたらベテランかもしれません。

そういった意味では、ほんとうにまっさらな状態の、「単純な新人」なんて、どこにもいないんです。

いままでの経験や特技を、保育と絡めながら、「その人にしか作れない」子ども達との時間を生み出していってほしいと思っています。

面接=入職後にお互いが幸せになるためのもの

――「新人」という言葉が出ましたが、齋藤さんが、職員の採用において大切にしていることはありますか?

面接に来てくれた方には、いつも最初に伝えているのですが、僕は、「面接は入職後にお互いが幸せになるためにあるもの」と考えています。

齋藤 紘良さん▲「単に僕らが求職者を“試す”“見定める”のが選考ではない」と真剣に語ってくれた齋藤理事長

面接に来てくれた方も、採用する僕らも、いったん、テーブルに自分の「持っているもの」を出し合ってみる。

そして、それぞれ相手について知っていくなかで、「重なりあう部分」「共感できる部分」を探していく……。

面接を通じてお互いに「共感できる部分がある」と思えるならば、ぜひ来ていただきたいと思いますし、もしも「少し違うな……」と感じたならば、その方には、より幸せになれる環境が、ほかの場所にあるのかもしれません。

保育経験よりも大切なのは、「人に興味があること」

――保育士さんの採用において、「これだけは必須」という要素はなんだと思いますか?

「人に興味があること」は、絶対に必要だと思いますね。

「この子はなんで怒っているんだろう。」「なぜこの人とうまくいかないんだろう。」そういった感情は、人に関心を持たなければ生まれないものでしょう。

疑問に思ったり、悩んだり、今の状況を改善したいと思ったり……そのような感情を抱かなければ、相手を理解して、よりよい関係性を築くことはできませんよね。

「人に興味がある」という、この根本的な要素は、豊富な保育経験や長年培った知識以上に大切なことだと考えています。

職員一人ひとりを大切に考える

――いままでのお話で、齋藤さんが、採用においても、園の運営においても、「人」を大切にされていることが、よく伝わってきます。

保育というのは「生活の場」なんです。その生活の場をより豊かにするためには、なによりもまず、「その人だからこそ生み出せる時間」があることが必要だと考えています。

その人だからこそ実現できる取り組み
その人だからこそできる子ども達とのかかわり
その人だからこそ伝えられる知識や情熱……

その一つひとつが、日々の子ども達の生活をより味わい深く、充実したものにしてくれるんです。

だから、職員には誰ひとりとして不要な人はいませんし、誰ひとりとして欠けてほしくないですね。

――単に「人材」として捉えるのではなく、一人の「人間」として尊重されているのですね

園の運営を行う立場の僕らが、職員一人ひとりを大切に考えなくては、保育にもネガティブな影響を与えてしまいます。

大人同士の人間関係は、子ども達にも影響を及ぼしますから……。

――それは、具体的にどういったことでしょうか?

ある園長が、保育士さんに対していつも威圧的な態度で、自分の指示命令を押し付けていたとしましょう。

すると、自然と保育も大人の意見を押しつけるようなものになってしまいます。

たとえば、その園長が「子ども達の主体性を引き出す保育をしろ!」と指示したところで、園長が日ごろ、保育士さんの主体性を引き出すような接し方ができていないのですから、保育士さんは、どのようにしたらよいかわからない訳です。

――なるほど……。運営のあり方は、保育のあり方にも大きな影響を与え、子どもたちの育ちに直結していくのですね

主体的に、保育について考えてほしい

――職員を大切に思い、一人ひとりが自分らしさを発揮しながらいきいきと働ける……そんな職場づくりを実践している齋藤さんですが、逆に職員に求めたいことはありますか?

僕に与えられた大きな役割のひとつは、職員が働ける環境と、職員の生活を保障すること。

それらを守るために、時には必要な指導や指示をすることもあります。ただし、決められた理念や方針を職員に押し付けて、「ついてこい!」というような運営をするつもりはありません。

職員一人ひとりにも、保育のありかたについて、主体的に考えてほしいと思いますね。

齋藤 紘良さん▲「うまく思考ができない時には、声をかけ、思いや考えを引き出せるように支援します」そう語る齋藤理事長

ともに考え、語り合い、時には悩みながら、職員一人ひとりが「この場所にいていいんだ」ということが確信できるようなコミュニティを作っていきたい。子どもはもちろん、大人もいきいきと生活できるような場を作っていきたいと思っています。

――貴重なお話をありがとうございました!

◆「しぜんの国」で働きたい!と感じた方は……◆

しぜんの国では、子ども達とともに、いきいきとした生活を作りあげてくれる職員を募集しているとのこと。保育士はもちろん、調理スタッフ、事務員なども募集中!

「すべて子ども中心」の理念に賛同し、「しぜんの国でいっしょに働きたい」と感じた方は、ぜひ社会福祉法人 東香会のホームページもチェックしてみてくださいね!

【しぜんの国採用ページはコチラ】https://sizen-no-kuni.net/recruit/#recruit

編集者より

子ども

渋谷東しぜんの国こども園を見学させていただいた時、なぜ、こんなに職員の方が楽しそうにと働いているのか、なぜ開園から間もないにもかかわらず、子ども達が満たされた表情で、穏やかに生活しているのかと、不思議に思いました。

「すべて子ども中心」という理念をもとに、職員が主体的に保育を組み立てる。あるいは時に子ども達が主体となって日々の生活を組み立てる……。

これらは、決められた方針や教育メソッドに、強制的に従わせるような運営方針のもとでは、決して実現しないことでしょう。

「しぜんの国」で生活する人々がいきいきとしている理由、それは「子どもも大人も、それぞれがかけがえのない存在として尊重されているから」ではないのか。今回、齋藤理事長にお話をうかがって、そのように感じました。

次回は、渋谷東しぜんの国こども園で働く保育士さんに、仕事のやりがいや園の魅力について、くわしくお話をうかがいます。

※この取材記事の内容は、2018年12月に行った取材に基づき作成しています。

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